身体障害者の権利、社会保障、偏見との闘いなど、社会問題を盛り込んだ近未来SF Lock In

著者:John Scalzi
ハードカバー: 336ページ
出版社: Tor Books
ISBN-10: 0765375869
発売日: 2014/8/26
適正年齡:PG12
難易度:中級〜上級(シンプルな文体。SFに慣れている人であれば知らない用語が出てきても読みやすい)
ジャンル:SF/警察小説、犯罪小説
キーワード:近未来、疾病の流行、身体障害者、偏見、富の差、テクノロジーの問題点

近未来、世界中で新種のインフルエンザが大流行する。死亡率が高いだけでなく、髄膜炎を引き起こす。その結果、脳の構造に変化が起こり、ほとんどの者が回復しても身体を動かすことができない"Lock In"という状態になってしまう。当時のアメリカ大統領Hadenの妻が罹患したことから、Lock Inの状態は"Haden's Syndrome"、患者は"Haden"と呼ばれるようになった。


あまりにも多くの人口がLock Inの状態になってニーズが高まったことと、大統領の妻がそうだったことから、アメリカでは"Haden"の患者に対応するテクノロジーと社会保障を押す政策が速やかに作られた。そして、現在ではHadenの多くは自分の脳から命令を送るロボットを使って社会帰還している。このロボットのニックネームは"Threep"で、それがスター・ウォーズのC-3PO(See-Threepio)から来ていることが軽く「示唆」されている(僕の読者なら、わかるよね? という感じで)。

また、Lock Inせずに回復した数少ない患者は、頭にレセプションを埋め込む手術をすることで、Lock InしたHadenを頭に招きこんでThreepのようなホストになるボランティアになれる。彼らは、"Integrator"と呼ばれ、(チーズバーガーを食べるなど)人間にしかできない体験をしたいHadenが契約を結ぶ。

有名な政治家を父に持つChris Shaneは、幼いときにHadenに罹患し、それ以来政策を推し進めるための広告塔のような存在だった。裕福で働く必要がないChrisだが、自ら選んでFBI捜査官になった。ところが、勤務の初日から大混乱に巻き込まれる。保守の党が政権を握り、Haden患者への社会保障を大幅にカットする案が可決し、それに反対するHadenのデモがスタートしていたのだ。そこに、Integratorが係る殺人事件が起きる。

 

Scalzi

BEAで。John Scalziさんと

ヒューゴ賞受賞作家Scalziの最新作は、SFでありながら、犯罪ミステリのような作品である。
また、Chris ShaneはThreepを使っているので偏見に会うが、それは現在社会では人種差別や身体障害者への偏見と同様である。

富を持つ者と持たない者、国がどこまで国民の面倒を見るべきなのか、テクノロジーはどこまで許されるべきなのか、など多くの問題定義もしている。

SFが苦手な人でも、ミステリとして「次はどうなるんだろう?」とすんなり読み進めることができるだろう。

読み始めたら、一気に読んでしまえる面白い本だった。

5月末にJohn Scalziさんに(二度も会って!)お話できたのが嬉しかったです。
SF作家の方はほとんど皆そうなのですが、とっても気さくでいい方でした!

 

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