主人公の人物設定、成長過程、クエストにリアリスティックな好感を抱けるYAファンタジー三部作 The Girl of Fire and Thorns

著者:Rae Carson
ペーパーバック: 448ページ
出版社: Greenwillow Books
ISBN-10: 006202650X
発売日: 2011/9
適正年齡:PG12(中学生以上)
難易度:中〜上級(一人称の語りなので読みやすいが、世界観が複雑なのでTwilightほど簡単ではない)
ジャンル:YAファンタジー
キーワード:魔術、王国、戦争、侵略、治世、神の意思、クエスト、冒険、忠誠心、愛、裏切り、許し
賞:YALSA Best Fictionトップ10など多くのマイナーな賞にノミネート

Joya(ホヤ)人の世界では、百年に一度「Godstone(神の石)」という青い宝石を神から臍の中に埋め込まれる者が現れる。Godstoneを体内に持つ者は、神から授かった特別な能力を使って与えられた使命を果たさねばならない。そこまでは知られているが、それぞれに与えられた使命は誰にも明らかではない。また、Godstoneを持つ者は早死する傾向があることも知られている。

百年ぶりに神からGodstoneを与えられたのは、Orovalle(オロヴァイユ)国王の次女王女Elisa(エリサ)だった。美貌と知性を持つ姉に比べ、Elisaは容姿にも才能にも自信がない。内気で社交も避けていたElisaは、16歳のときに突然父の命令で同盟国Joya d'Arena(ホヤ・ダレーナ)国の王Alejandro(アレハンドロ)と政略結婚をすることになる。


Joyaの国々はInvierne(インヴィエルネ)と呼ばれる異人種の国と長年闘いを続けていたが、まったく文化も風習も異なるInvierneがなぜ交渉にも応じず、攻撃を続けるのか不明のままだった。InvierneにはGodstoneを使うanimagiと呼ばれる魔術師がいて、彼らの魔力のもとにはJoyaは非力だった。

そのために、Godstoneを身体の中に持つElisaへの人々の期待は強いが、Elisa自身はGodstoneの意味も意図も知らない。

見知らぬ相手との結婚式の後すぐさま故郷を離れたElisaがJoya d'Arenaに到着すると、夫のAlejandroは「結婚したことはしばらく内緒にしておきたい」とElisaに告げ、貴族の娘で愛人のAriña(アリニャ)と一緒に過ごす。Ariñaの女中にまで嫌がらせをされ孤立していたElisaだが、知性を使ってJaya d'Arenaを自分の故郷にしようと試みる。だが、そのさなかに誘拐され、反逆グループと危険な砂漠を旅することになる。

 

ベストセラーになっているYAファンタジーで私がうんざりするのは、

1)主人公が美貌(特に金髪で肌が抜けるように白く、長身でスリム) 
2)最初から優れた能力がある 
3)その能力で簡単に大人から信頼され、世界を救う 
4)ハンサムな男性と出会ったときから運命の恋に陥る 
5)無意味に三角関係の間で悩む 

などである。

だが、CarsonのThe Girl of Fire and Thorns三部作は上記のいずれにも当てはまらない。

まず、物語の中心であるJoya人種は南に住んでいて肌が浅黒く、髪も目も黒い。北に住む敵のInvierneは金髪で肌も真っ白だ。Elisaは、Joya人の中でも肌が黒いほうで、背も低く、太っている。美しい姉から邪険にされてきたので劣等感だらけで、ストレスがあると甘いものを食べて発散しては自己嫌悪にひたる悪循環も読者の共感を呼ぶだろう。また、Godstoneという伝説の石を体内に持っている特別の存在だが、命を狙われるだけで、何の役にも立たない。

けれども、Elisaには多くのYAファンタジーの主人公にはない魅力がある。それは、感情にまかせたくだらない行動を取らないことだ。自分の中に生じる怒りや惨めさを認めた上で、「この場合には、どう対処するべきか」と考えてから行動を取る。失敗ももちろんおかすが、失敗から学び、それを活かしている。新しい体験から学んで三部作を通して成長していくところがリアリスティックだ。

どんなに特殊な能力があっても17歳の少女が国を統治するのは簡単ではない。善と悪はそうはっきりと分けられるものではないし、残酷な決断もしなければならない。個人の倫理観だけでは国をひとつにまとめることができないのが現実だ。それらの葛藤をCarsonがきちんと扱っているのも、流行りのYAファンタジーとは大きく異る。

ラブストーリーも三部作の重要な部分だが、これもリアリスティックに発展していく。恋を知らないときの淡い憧れ、失望、初恋、傷心、友情と信頼から始まる愛…など思春期を迎える読者に心から勧められる本だ。ネタバレだから書けないが、ヒロインとヒーローの関係にとても好感が抱けた。「本当に強いとはどういうことか?」というテーマを若い男女に考えてもらうきっかけになったらいいと思う。

完結編の3巻では、神がElisaに与えた使命も明らかになる。私は宗教色が強い本は好きではないのだが、この三部作に関しては気にならなかった。Elisaに神が与えた使命を知れば、「ああなるほど!」とニヤリとするだろう。このあたりもCarsonに拍手したくなる。

性のテーマは出てくるけれども、しっかりと扱っているし、詳細のシーンはない。むしろ、中学生からお薦めしたい本である。

 

2. The Crown of Embers

 

3.(完結編)The Bitter Kingdom

 

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