専門外の人間が読むピケティ Capital in the Twenty-First Century

著者:Thomas Pikkety
ハードカバー: 696ページ
出版社: Belknap Press
ISBN-10: 067443000X
発売日: 2014/4/15
(オリジナルはフランス語)
適正年齢:PG(読める人なら誰でも)
難易度:上級〜(翻訳英語なのでシンプル。しかし専門用語が多く、専門外の人には分かりにくい)
ジャンル:ノンフィクション/経済書
キーワード:income inequality, Wealth inequality, r > g, return on capital, economic growth, capitalism, capital

 

フランスの経済学者トマ・ピケティのCapital in the Twenty-First Century(邦訳版『21世紀の資本』)は、700ページにも及ぶ分厚い経済書である。それなのに、日本でもベストセラーになったのには驚いた。

たぶん、『富の格差の拡大』というテーマが今の日本人の心境にぴったりしているからだろう。


ピケティが本書の中で何度も繰り返しているr>gは、アマゾンの解説を引用させてもらうとこうなる。

≪資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、 資本主義は自動的に、 恣意的で持続不可能な格差を生み出す≫

r>gそのものや、それが持続不可能な格差を生み出すかどうか、またピケティの提案する解決策についての反論は多い。だが、それは私の専門ではないので別の方々に任せようと思う。

専門外の私にとって面白かったのは次のような部分だ。

まず、データが素晴らしい。これほど歴史をさかのぼってしっかりとデータを集めた本はないだろう。しかも、ピケティはその貴重なデータの数々を惜しみなくネットで公開している。

次に、「資本収益率(r)や経済成長率(g)」、あるいは「資本」そのものが社会とどう関係しているのかを、バルザックやオースティンの小説を使って説明しているのがよかった。普通の人には、こういった視点が欠けているし、歴史的な観点も欠けている。それを、ぐっと身近なものにしてくれる。

ピケティの思慮深いアプローチにも好感が抱ける。彼が語る「r>g」というテーマは重要だが、これ以外にも富の分配に影響を与えている因子は多いということを本人が自覚しており、それをしっかり明記している。ただ、それら全部を語り始めると論点がボケるので、本書ではテーマを絞っているのだ。読者はそれを心得て読むべきだろう。

歴史や地理の大局を読むことにより、周囲の具体的な例について興味を抱き、自分なりに考えることができたのも良かった。

私の周囲には、富を蓄えるのが得意な人とそうでない人がいる。それは必ずしも収入の不平等と一致していない。長年の私の観察から自信を持って言えるのは、「資本について積極的に知識を持ち、行動しているかどうか」のほうが富の蓄積への影響は強い、ということだ。income inequalityとwealth inequalityは同じではない。

もちろん、ピケティが語っているように、アメリカのトップエグゼクティブやウォール街の投資銀行家は理不尽とも言える収入を得ているし、投資銀行家は税でも優遇されていて、それが富の集中には繋がっている。それは否定できない。また、資本について積極的に考えられる人はそういった家庭で育っていることが多く、そこに既に「格差」があると言える。でも、生まれつきの性格というのも大きい。周囲の人々を見ると、(私も含めて)この部分がけっこう大きいのだ。それを課税政策で変えることはできないだろうと私は思うのである。

ところで、アメリカ人は収入が低い人でも高収入者への課税額を増やすのを嫌う傾向がある。つまり、「自分が金持ちになったときのこと」を考えているのだ。これが他国の人には理解できない「アメリカンドリーム」の心理なのである。

本書を読みながら再び強く思ったのが「機会均等と教育の平等の重要さ」である。「前の世代から富を受け継がなくても本人さえ頑張れば機会を手にすることができる」という希望が見えるほうが、社会は健全でいられると思う。これは本書に対する反論、というよりも、読んでいるときに心に浮かんでいたことだ。

しかしながら、本書を読んで私が一番ワクワクしたのは、これまで書いたことではない。また、著者ピケティが狙ったことでもないだろう。

私が思ったのは、「これからSFやファンタジーを書く人は、本書を読むべきだ」ということだ。

近未来ディストピアを描いたSFやファンタジーには、社会がどう動くのかをしっかり理解していない(あるいは熟慮していない)著者が書いた作品がけっこう多い。そういった作品のほうが売れたりするからうんざりする。でも、本書を読めば、歴史上お金が社会にどんな影響を与えたか、あるいは戦争などのイベントの後に経済がどう変わったのか、といった大きな像が見えてくる。この知識が、SFやファンタジーで創る世界観に説得力を与えると思うのだ。

。。。という観点から大学生の娘にも「読むといいよ」と薦めた。

私はKindleとオーディオブックを合わせて利用したけれど、本書に限っては紙媒体をお薦めする。データが多いので、いちいちそれを探すのが大変だったからだ。

読む前にTEDトークを聴くと、さらにわかりやすいかもしれない。

https://embed-ssl.ted.com/talks/thomas_piketty_new_thoughts_on_capital_in_the_twenty_first_century.html

 

 

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 多くの職を体験し、東京で外資系医療用装具会社勤務後、香港を経て1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 100 reviewer.

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