「死」の守護聖人に仕える尼僧院に育てられた暗殺者の葛藤 Grave Mercy (His Fair Assassin Trilogy)

著者:Robin LaFevers
ペーパーバック: 576ページ
出版社: HMH(Houghton Mifflin Harcourt) Books for Young Readers
ISBN-10: 0544022491
発売日: 2012/4/3
適正年齢:PG14(中学校高学年以上、性的な話題あり。露骨なシーンはない)
難易度:中級〜上級(一人称で語られるために読みやすく、理解しやすい)
ジャンル:YAファンタジー/歴史(中世からルネッサンス期の境でのブルターニュ公国)
キーワード:中世、ブルターニュ公国(Brittany)、アンヌ・ド・ブルターニュ (Anne de Bretagne)、暗殺者、政略結婚

15世紀後半、中世からルネッサンス期への移行期のBrittany (ブルターニュ公国)は、François II de Bretagne(フランソワ二世)の急死により隣国フランスからの侵略の危機に常にさらされていた。

フランソワ二世には愛人が産んだ男子はいたが、直接の後継者になる正式な王子はいなかった。公式の後継者は公女のアンヌ・ド・ブルターニュ (Anne de Bretagne)だったが、彼女ひとりでは公国の独立を守ることができない。

だが、Anneの求婚者はBrittanyを自国の領土に加えようとしている貪欲なフランスの王、国内での権力を我が物にしようとしている貴族、など危険な相手ばかりだった。


いっぽう、宗教に関しても古来の信仰がキリスト教に取りこまれようとしていた。
古くからの神々への信仰は、「守護聖人」という形で存続しており、それぞれの守護聖人に仕える僧院や尼僧院があった。

実の父親に虐待されて育ったIsmaeは、14歳のときに年配の農夫に嫁として売られる。St. Mortainの尼僧院は、残酷な農夫からIsmaeを救出し、教育と訓練を与えた。St. Mortainは「死」の守護聖人(古来からの神)で、Brittanyを裏切った者を暗殺するのがこの尼僧院で育つ少女たちの役割だった。Ismaeは、この尼僧院で自分の実の父親がSt.Mortainだと聞かされる。

4年近い訓練を受けたIsmaeは、ようやく実際に暗殺者の仕事を与えられるようになる。
そして、与えられたのが、Anne公女の腹違いの兄で相談役のDuvalをスパイする役割だった。世間を知らずに育ったIsmaeは、突然大きな政治の世界に巻き込まれ、これまで信じてきたことを疑うようになる。

 

表紙だけを見ると、ふわふわしたYAファンタジーのようだが、けっこう読み応えがある。私の娘やその友だちがいま中学校高学年か高校生だったら、次のような点から絶対に薦めていただろう。

1)実際の歴史にもとづいているので、その時期の歴史を知りたくなる。

Anne公女の腹違いの兄Gabriel Duvalと守護聖人に関する部分は著者の創作だが、後の人物たちは実存している。もちろん言動はフィクションだが、相談役だった者たちは、この小説で描かれているように全員Anneを裏切っている。(Duvalの母にあたる人物は実存したが、この小説の時期には実際には死亡している)

2)主人公のIsmaeが魅力的

よくあるYAファンタジーで一番私が嫌なのが、外見がホットな男性キャラに理由なく恋に落ちる女性主人公である。それと、見かけが美しい女性主人公にぞっこん惚れ込む男性キャラ。人を好きになるのはそういうものではないし、そういうメッセージを中高生の少女に与えなくないといつも思っている。
この小説では、主要人物二人は互いの信念や言動に惹かれるようになっていく。そこにとても好感を抱けた。

3)善と悪とはそう簡単に見極められないものだというメッセージがある

これまで絶対だと思ってきたことへの疑問と、それに対してどう行動するのか、というのがしっかり描かれている。その思考過程が描かれているのが良かった。

 

上記は中高生の少女にお薦めする理由だけれど、女子中高生だけでなく、大人でも男性でも軽く楽しめると思う。現実に疲れていて、「ちょっと別の世界でドキドキ、心ぽかぽかしてみたい」という方にもお薦め。

His Fair Assassin三部作では、 St. Mortainで育てられた別々の少女が主人公の次の二作が出ている。

 

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

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