ネットで他人を血祭りにあげたい集団の心理を探る So You’ve Been Publicly Shamed

著者:Jon Ronson
ハードカバー: 304ページ
出版社: Riverhead Books (2015/3/31)
ISBN-10: 1594487138
発売日: 2015/3/31
適正年齢:PG15(SMクラブやセックススキャンダルなどの性的な話題がある)
難易度:中級レベル
ジャンル:ノンフィクション/ルポ/エッセイ
キーワード:公の場での辱め、ソーシャルメディア、インターネット、ツイッター、集団心理、罪と罰
2015年「これを読まずして年は越せないで賞」候補(渡辺推薦)
媒体情報:オーディブルに適した本(著者本人が読んでいる)

本書が邦訳されたようです(2017年2月15日発売)! 英語で読めなかった方、ぜひどうぞ。

本ブログが2011年「これを読まずして年は越せないで賞」のノンフィクション賞に選んだ『Psychopath Test』の著者Ronsonの最新刊は、ソーシャルメディアで目立つようになった集団による個人の「公開処刑」とその背後にある人々の心理を掘り下げたルポ/エッセイである。

Twitterで自分の偽物を見つけたJon Ronsonは、「アイデンティティ泥棒」のアカウントを消してくれるよう依頼する。ところが、このアカウントを作ったのは英国の「学者」たちで(カッコつきにした理由は本を読めばわかると思う)、「Jon Ronsonって名前は沢山ある。それを君が独占する権利はない」といった歪んだ反論をしてやめようとしない。業を煮やしたRonsonは彼らと直接会ってディスカッションしたものをYouTubeで公開した。

すると、驚くほど多くの視聴者がRonsonに同情し、学者たちを非難するコメントを書き始めたのである。

“Vile, disturbing idiots playing with someone else’s life and then laughing at the victim’s hurt and anger”

“Utter hateful arseholes.”

“These fucked up academics deserve to die painfully. The cunt in the middle is a fucking psychopath.”

“Gas the cunts. Especially middle cunt. And especially left-side bald cunt. ANd especially quiet cunt. Then piss on their corpses.”

Ronsonが懇願してもせせら笑っていた学者たちは、公の場で辱めを受けてすぐに偽アカウントを閉じた。

Ronsonは自分が間違っていなかったことを知って気分を良くしていたのだが、上記のようにコメントのトーンが攻撃的になってきたのに「誰も本当に危害を与えなければいいけれど……」とかすかに不安を覚えた。

巨大な組織との闘いで困っている個人をTwitterで人々が力を合わせて助けたケースはいくつかあるが、そういった素晴らしい例ばかりではない。少数の友人や知人を相手に放ったジョークがTwitterやFacebookで無数に広まり、それで人生を破壊される「普通の人」が増えてきたのである。

Ronsonが例にあげているのは、英語のニュースを追っている人なら誰でも知っているケースばかりだ。

そのひとつは、人種差別的としか思えないようなツイートしてから飛行機に乗り、降りたときには職を失っていたPRエグゼクティブの女性だ。私もこのツイートには「PR専門家のくせに、こんなツイートをするなんて!」と憤慨し、呆れたのでよく覚えている。

けれども、Ronsonが会った彼女の現状を知ると、「彼女は、これほどの罰を受けるほどの罪をおかしたのか?」と疑問を抱くようになる。そして、「一人の人生をこれほどまでに惨めにする権利を私たちは持っているのか?」「それほど私たちは清い存在なのか?」と自問せざるを得なくなる。

私は2010年に『ゆるく、自由に、そして有意義に──ストレスフリー•ツイッター術』というTwitterでのふるまい方についての本を書いた。そのとき、ツイッターのコミュニティが村だったときのことを振り返ったが、Ronsonも似たようなことを感じているようだ。

In the early days of Twitter there were no shamings. We were Eve in the Garden of Eden. We chatted away unselfconsciously. As somebody back then wrote, “Facebook is where you lie to your friends Twitter is where you tell the truth to strangers.” Having funny and honest conversations with like-minded people I didn’t know got me through hard times that were unfolding in my actual house.

2008年や2009年初頭までにツイッターを始めた人は、この感覚がとても良くわかると思う。
あの頃は、見知らぬ人と、心に浮かんだことを自由に語り合うことができた。ちょっと口を滑らせたおかげでネット中に自分の顔と名前が広まり、世界中から非難され、屈辱を受け、ネット上にその屈辱が永遠に残り、死にたくなるようなことはなかったのだ。

それにしても、なぜゆえに私たちはソーシャルメディアで人を罰したいのだろう? さほどの罪を犯していない人に辱めを与え、人生を破壊し、いい気持ちになっている自分になぜ疑問を抱かないのだろう?

Ronsonは、現在のネット上の心理だけでなく、人類の歴史でずっと昔からあった「公での辱め」という罰について掘り下げていく。興味深い人々を私立探偵のように探りあて、相手が会ってくれるまでしつこく追い続け、奇妙な場所に潜り込んで体験するRonsonにはいつも感心する。

ただのルポではなく、理念を語る本でもなく、好奇心を十分満足させてくれる冒険娯楽ノンフィクションである。ただし、いつものRonsonの作品よりシリアスで、滑稽なシチュエーションはあるが、笑えるところは少ない。

私はハードカバーで読んだが、著者本人が読んでいるAudibleもお薦めだ。私はロンドンでJon Ronsonがゲストのトークイベントを観る機会があったが、落ち着いた口調で面白いことを次々に言うので笑いすぎて腹筋が疲れたほどだ。あの英国訛りもいい。
ハードカバーには写真が少しあるけれど、これはgoogleで探せばみつかる。

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