オスマン帝国によるアルメニア人虐殺の悲劇と悲恋 Orhan’s Inheritance

著者:Aline Ohanesian
ハードカバー: 340ページ
出版社: Algonquin Books
ISBN-10: 1616203749
発売日: 2015/4/7
適正年齢:PG15(残酷な場面、レイプなどを扱っている)
難易度:上級レベル(だが、いったん入り込んだら後は読みやすい)
ジャンル:歴史小説
キーワード:オスマン帝国(トルコの前身)、アルメニア人虐殺、genocide(ジェノサイド、民族虐殺)、悲恋

1990年、トルコのSivas村で93歳のKemal Türkogluが絹糸を染める大釜に浸かって死んでいるのが見つかる。第一次世界大戦の英雄で、戦後に高級品のキリム絨毯の会社を築き上げたビジネスマンのKemalは、エキセントリックでもあった。だからKemalが藍色に染まって死んだことはさほどの驚きではなかったが、会社を孫のOrhanに、家族がずっと暮らしてきた家を名前を聞いたこともない女性に遺したことに遺族はショックを受けた。

トルコの法律では、財産を受け継ぐのは故人の長男だということになっている。弁護士を雇って訴訟すると息巻く父を残し、Orhanは祖父が信用していた弁護士の提言に従ってロサンゼルスの老人ホームに入居している87歳の老女Seda Melkonianに会いに行く。

Sedaは土地を譲り渡す書類にさっさとサインしてOrhanを追いやろうとするが、Orhanはなぜ祖父がSedaに家を残したかったのかを知りたいと思う。何度も老人ホームを訪問するOrhanに、Sedaはついに過去のことを語り始める。

*** ***

実は、この本を読むかどうかずいぶん迷った。

名前がianで終わることから、著者がアルメニア人(系)だということが推察できる。しかも、テーマはオスマン帝国によるアルメニア人虐殺の歴史らしい。正直言って、米国でのアルメニア人との体験は、あまり良いものではない。いろいろあるが、最も嫌な思い出は、偏見をなくすために尽くしてきた町の草の根団体が反トルコ政府キャンペーンの一環としてアルメニア系アメリカ人に破壊されたことだ。あたかも私自身が虐殺に手を貸したかのように敵意をこめて糾弾する人々の表情は思い出したくもない。

でも、いったん先入観を捨てて読んでみることにした。

読んで感心したのは、著者の思慮深さである。

トルコ人を一方的に悪者にするのではなく、戦争で引き裂かれたトルコ人とアルメニア人の悲恋を中心にすることで、客観的に読者に「アルメニア人虐殺」の史実を伝えようとしているのがいい。実際に悲劇を体験したアルメニア人女性Sedaが、(私が対応したような)若い世代のアルメニア系アメリカ人たちの政治活動に批判的なのにも好感が抱けた。

オスマン帝国によるアルメニア人虐殺は、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺とよく似ている。ソビエトによるバルト三国の反ソビエト分子の虐殺も、民族の抹消を目的としたものではないが、同じ人間に対する徹底した残酷さは同じだ。

つまり、どの国でも、過去のどこかで同胞や隣人を冷酷に、残忍に殺している。歴史を遡れば、私たちの祖先は全員が被害者であり、加害者なのだ。

けれども、虐殺による過去の強い痛みの記憶を抱えている民族に対して、「みんな同じだから忘れろ」と言うことはできない。彼らが痛みを忘れるためには、周囲がまずその痛みを事実として認めてやるところからスタートしなければならない。それは、トルコ政府とアルメニア人には限らない。日本と隣国との関係もそうだ。

そういうことを感じさせてくれたのが、この切ない物語『Orhan’s Inheritance』だった。

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