世界的ベストセラーを予感させるバチカンを舞台にした殺人ミステリ The Fifth Gospel

著者:Ian Caldwell
ハードカバー: 448ページ
出版社:Simon & Schuster
ISBN-10: 1451694148
発売日: 2015/3/3
適正年齢:PG12(中学生以上)
難易度:中〜上級レベル(文章はシンプル。入り込みやすいページ・ターナー)
ジャンル:宗教ミステリ
キーワード:バチカン、キリスト教、Shroud of Turin(トリノの聖骸布)、トマスの福音書、兄弟愛

バチカン市国のマップ
バチカン市国のマップ

ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世の健康状態が悪化していた2004年。

バチカン美術館でのShroud of Turin(トリノの聖骸布)の展示を企画していたキュレーターUgoが何者かの手により殺された。その死体を最初に発見したカトリックの神父Simonに殺人の疑いがかかる。

同じ夜、Simonの弟でGreek Catholic(Eastern Catholic、東方典礼カトリック教会)の神父Alex の家に強盗が侵入する。死んだUgoは兄弟ともに親しい仲だった。Alexは兄が友人を殺すはずはないと信じるが、Simonは調べに対して黙秘し、弟にすら何も打ち明けない。Alexはカトリック教会内で重要な地位にある者の陰謀を疑う。

バチカンは、カトリック教会(Roman Catholic Church)と東方典礼カトリック教会(Greek Catholic Church)の中心地である。あまり知られていないGreek Catholicは、Greek Orthodox (ギリシャ正教)が用いる典礼を使うが、ローマ教皇権を認め、ローマ教皇庁に統治されているところが決定的に異なる。

SimonとAlexの父親はバチカンではマイノリティであるGreek Catholicの神父だった。彼の夢は、20 世紀前に東西に分裂した教会を統一することだったが、それに失敗して傷心のまま世を去った。

孤児になった兄弟は、どちらも成人になって宗教者の道を選んだが、Alexが父の後を継いでGreek Catholicの神父になったのに対し、兄のSimonはカトリック教会で重要な地位にある叔父の援助でRoman Catholic の神父になることを選んだ。

Roman Catholicとは異なり、Greek Catholicの神父は結婚して家族を持つことを許されている。Alexは同じくバチカンで育った女性と結婚したが、息子が生まれてすぐに妻は家を出てしまった。5歳の息子とふたりきりで静かに暮らしていたAlexの生活は殺人事件を機に急変する……。

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Shroud of Turin(トリノの聖骸布)、写真はパブリックドメイン
Shroud of Turin(トリノの聖骸布)、写真はパブリックドメイン

正式なGospel(福音書)には、Matthew(マタイ)、Mark(マルコ)、Luke(ルカ)、John(ヨハネ)の4つがある。タイトルにあるThe Fifth Gospelとは、新約聖書に福音書記者として名前が載っていないThomas(トマス)の福音書のことだと思われる。

十字架にかけられたキリストの亡骸を包んだと言われているShroud だが、正式な4つの福音書には、その状態をそのまま裏付ける記述がない。どこか矛盾している。その理由は何なのか? St. Thomasは誰なのか? Shroudは本物なのか……?

そういった謎の数々や、カトリック教会とギリシャ正教の関係、教会内の力関係やバチカンの内部構造、兄弟愛、キリスト教信者としての徳や愛の考え方……など殺人ミステリ以上に読み応えがある作品だ。とくに、バチカンでの法のさばき方やバチカンでのGreek Catholicの立場や東西に別れた教会のことなどまったく知らなかったから、好奇心を満足させてくれた。

筋書きだけを読むと、ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』を連想するかもしれない。でも、『The Fifth Gospel』はそれより深くて、宗教ミステリとしては『The Name of the Rose』に近いタイプだ。

20世紀前に教会を東西に別れさせる原因になったPeter(聖ペテロ)とAndrew(聖アンドレアス)と、その二つを再び統一させようとする強い願いに関わることになったSimonとAlexの兄弟の葛藤も胸に迫る。

特定の宗教に属さないことを決めている私のような読者でも興味深く読めるし、楽しめる。特に男性読者が感動しそうな場所がたっぷりで、国際的ベストセラー間違いなしだ。

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