アメリカの南北戦争はまだこんなところで続いている……と唖然とした女性小説 The Sound of Glass

著者:Karen White
ハードカバー: 432ページ
出版社: NAL
ISBN-10: 0451470893
発売日: 2015/5/12
適正年齢:PG15
難易度:中級レベル(ページ数は多いけれども、シンプルな文章)
ジャンル:女性小説(chick lit)/ミステリ/ラブロマンス
キーワード:家族の秘密、家庭内暴力、虐待、恋愛、家族愛、アメリカ南部の美徳、サウスカロライナ

アメリカ東海岸の北端にあるメイン州で生まれ育ったMerrittは、亡くなった夫の遺産として彼の祖母が住んでいた古い屋敷を受け取る。Merrittは辛い思い出ばかりのメイン州を離れ、サウスカロライナにあるその屋敷に移住することに決める。けれども、初めて訪問した夫の故郷で待っていたのは、自分に敵意を抱く夫の弟、亡くなった父の再婚相手と義理の弟、おせっかいな隣人たち、古ぼけた家に隠された家族の秘密だった。

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ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー作家のKaren Whiteの作品はまだ読んだことがなかったので、アドバンスドコピー(ARC)をいただいて読んでみた。

1950年代にサウスカロライナの空で起きた飛行機爆発事故のシーンから始まるミステリはなかなか魅力的だ。その謎が知りたくて読み進めたところ、ミステリというよりもはロマンスっぽい家族ドラマのようだ。まあそれはそれで構わない。面白ければいいのだ。…….と思っていたのに、今度はイライラ、ムカムカしてきた。

イライラ、ムカムカを引き起こした箇所は数えきれない。

まず、Merrittの義理の母親のLoraleeが苦手。

Merrittは最愛の母が亡くなった後、自分と年がほとんど変わらない若い女と再婚した父と仲違いしていたのだが、その父が死んで未亡人になったLoraleeが、着いたばかりの屋敷に何の連絡もなく10歳の息子をつれて現れるのである。そして、Merrittが嫌がっているのに、そのまま居着いてしまう。(読んだらすぐに察知できるのでネタバレするが)Loraleeは不治の病で余命が少なく、自分が死んだ後Merrittに息子の面倒をみてもらおうと計画しているのである。

それは構わないが、濃い化粧、露出が多い服、どんなときでもハイヒール….というLoraleeが、すっぴんでぶかぶかの服を着ているMerrittのことを心の中で「もっとちゃんとすれば綺麗になるのに」と評価して、ありとあらゆる手段で自分の好みの服を着せたたり、口紅をつけさせたりして、(予定調和的に)Merrittの亡き夫の弟である「医者」とくっつけようとするのは、「余計なお世話!」以外のなにものでもない。

そのうえ、Merrittと一緒に住む許可も得ていないのに、庭に飾る置物を買ってきて庭仕事を始め、クッキーを焼き、南部のこってり朝食を作り、Merrittに押し付ける。それを迷惑がるMerrittに、前述の義弟Dr. Gibbes Heywardが「Loraleeは親切で素晴らしい女性なのに、その親切を足蹴にするなんて、なんて心の狭い女なんだ!」というトーンの非難をする。

「うわああああ、ほっといてくれ〜!」と私は叫んでしまった。

招待してないのに押しかけてきた「嫌いな女」が住み着いて、私の趣味にあわない置物を買ってきて、私が食べたくない甘いクッキーや、胸焼けを起こしそうな朝食を作ってくれるのを「ありがとう!」と受け止めなくちゃならないの〜? それが南部ってものなの〜?

そのうえ、このLoraleeは、Merrittが「やめてよ」と拒否反応を起こすたびに、「私のママは、こういったのよ」と必ず格言を押し付ける。

そして、上記のイケメンドクターが「そ〜だ、そ〜だ。命短いのに、可愛げのない義理の娘に親切にしている南部の女の言うことをきいて女らしく素直になれ!」と北部の女の心の狭さを責める。

「こんな奴らは全部追い出して、家は売り払って、メインに帰りなよ、Merritt」と本に向かって喚いているのに、Merrittはだんだん洗脳されて「私って心が狭かったわ〜」「ミニスカートも悪くないわね。私の脚って長くて綺麗みたいだし〜」と変わっていく。

そして、ピクニックに行って「私スイカって食べたことないわ。どうやって食べるの?」的に驚いてスイカの種を(生まれて初めて)口から飛ばす競争をイケメンドクターとするのである。(南部には若いのにこんなに暇な医者がいるのか!)

ここで私は真剣に著者にお手紙を書きたくなった。

南部に住んでいる人は知らないかもしれないが、北部でもスイカは採れるし、夏にスイカを食べる習慣はある。
ボストン界隈でもメインでも、スイカを食べたことがない人に会ったことはない。

(ただし、近年では種なしスイカがデフォだから、南部の人がまだ種ありスイカだけを食べているとしたら、それはそれで興味深い。真実を知りたいものだ)

「もう読むのやめようかな」と思ったけれど、一応謎が知りたいので最後まで読んだ。そしたら、とても予定調和的なサプライズで、「うわああああ、時間の無駄をしてしまった」と涙が出た。

びっくりしたのはアドバンスドコピーを受け取ったほかの読者の評価が異常に高いことだった。その理由をしばし考えてはっと気づいた。

ボストン近郊在住の私は、最初からKaren Whiteの読者の敵だったのだ!

Whiteのファンは、「北部の女って、女らしくなくて、冷たくて、嫌よね〜。やっぱり南部の女のほうが上だわ」と自己満足に浸りたいのである。Whiteはその欲求に応えてあげているから人気があるのだ。

それを知らずに読んだ私が悪かった。

だが、私はどんなに長身イケメンであってもDr. Gibbesは要らない。遠慮しておく。

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