著者:Annie Barrows
ハードカバー: 512ページ
出版社: The Dial Press
ISBN-10: 0385342942
発売日: 2015/6/9
適正年齢:PG12(性関係の含みはあるけれども露骨な描写はない)
難易度:中級+(全体的にシンプルな文章、手紙が多い。ページ数も多く、読了に時間がかかる)
ジャンル:歴史小説(大恐慌期のアメリカ南部)
キーワード:家族の謎、Federal Writers’ Project、大恐慌(Great Depression)
大恐慌(Great Depression)が続く1938年、国会議員の娘として大事に育てられたLaylaは、父が薦める結婚相手を拒否して家を追い出されてしまう。叔父のコネでFederal Writers’ Project(FWP)の職を得たものの、Layla本人は、南部ウエスト・ヴァージニア州の片田舎に飛ばされることや、つまらない歴史を書き留める仕事に不満たっぷりだ。でも、FWPは恐慌で無職になった文筆家、学者、教師に職を与えるための連邦政府の対策である。贅沢な暮らしに慣れた令嬢に貴重な職を与えることを苦々しく思う叔父は、Laylaの不平には耳を傾けない。
Laylaの下宿先は、Macedonia町で特別な過去を持つRomeyn家の屋敷だ。家長のSt. Clair Romeynは、かつてMaceconiaで最も重要な産業である靴下製造会社の社長で、誰からも愛されていた。けれども、ある悲劇がRomeyn家の幸福を打ち壊し、St. Clairは傷心のうちに亡くなったのだった。
現在Romeynの屋敷を切り盛りするのは36歳で独身のJottieで、離婚した兄Felixの娘WillaとBirdも彼女が育てている。南部の田舎者への偏見を抱いていたLaylaは、38歳とは思えないほど若々しいFelixに魅了され、結婚した双子の妹MinervaとMae、末っ子で高校教師のEmmettもよく訪問する賑やかなRomeyn一家にほだされていく。けれども、12歳のWillaは父と仲良くなっていくLaylaに敵意を抱く。そして、父ともっと親しくなるために、しょっちゅう姿を消す彼の秘密を探り出そうとスパイを始める。そうして突き止めた真実は、Willaが望んでいたものではなかった……。
世界的ベストセラーになったThe Guernsey Literary and Potato Peel Pie Societyの著者(共著者だった叔母のMary Ann Shafferは死去しており、今回はBarrowのみ)の新作は、同じく歴史小説だが、舞台は大恐慌時代のアメリカ南部である。また、前回はすべてが手紙だったが、今回は手紙文が含まれているものの普通の文章の部分のほうが多い。しかも、Willaの一人称の語りと三人称のナレーションが混じっている。登場人物も多いので、最初のうちはとても混乱するのではないかと思う。
しかし、著者は人物造形がうまく、それぞれの人物がしっかりと浮かびあがってくる。いったん名前とイメージが結びつけば、スムーズに読み進めることができるだろう。
家族の謎はあるが、ミステリやスリラーのようなドラマチックな展開はなく、癖がある人物が沢山出てきて、ねっとり暑い南部らしく、ゆっくり展開する。読んでいるときに連想したのが、Fannie Flaggの Fried Green Tomatoes at the Whistle Stop Cafeだ。あの本ほどの感動は覚えなかったが、じんわりと楽しめる良い本だった。