次の『The Hunger Games』人気を噂されるYAファンタジー An Ember in the Ashes

著者:Sabaa Tahir
ハードカバー: 464ページ
出版社: Razorbill (Penguin group)
ISBN-10: 1595148035
発売日: 2015/4/28
適正年齢:PG15(バイオレンス、詳しい描写はないがレイプや性の話題あり)
難易度:中級+(世界観が複雑で、ページ数も多いので、ファンタジーに慣れていないと難しいだろう)
ジャンル:YAファンタジー(sword and sorcery)
キーワード:古代の帝国/戦国/支配者と奴隷階級/革命/魔術/予言/ロマンス

古代ローマを連想させるこの帝国は、闘いと征服の技術を重んじるMartialたちが支配している。かつてこの地を支配していた学問を重んじるScholarたちは、500年前にMartialらに侵略征服されて依頼、抑圧され、虐殺され、奴隷にされてきた。

Martialの支配に反逆する地下組織のメンバーだったLaiaの両親と姉はMartialに殺され、17歳になった彼女に残されたのは兄のDarinと祖父母だけだった。ところが、突然のMartialの家宅捜索でDarinが家に持ち帰っていた特殊な剣のスケッチが見つかり、祖父母は殺害されてDarinは逮捕されてしまう。命からがら逃げたLaiaは、兄を救ってもらうために地下組織に救いを求めた。けれども、かつて両親が命を捧げた地下組織のリーダーはLaiaを冷たく拒む。ほかに頼る先がないLaiaは、Darinの救出とひきかえに奴隷としてMartialの最高士官学校Blackcliffに入り込み、スパイする役割を引き受けた。

Blackcliffの女性士官学校長Commandantは冷酷極まりない人物で、少しでも気に入らないことがあると奴隷の目をえぐり、手を切り取り、殺す。だからこれまで長続きするスパイはいなかった。地下組織から何も知らされずに入り込んだLaiaは、スパイどころか生き残るだけでせいいっぱいだということを思い知る。

だが、個人に自由がないことでは奴隷も士官学校の生徒も同じだった。
Commandantが若い頃の失敗として忌み嫌っている息子のEliasは、残酷な帝国と学校から逃げたいと願ってきた。けれども、脱走者への罰は死刑だ。卒業式の直後に起こる祝いの混乱の途中に逃げるつもりで綿密に準備してきたのに、次期の皇帝候補になってしまう。自分の命を守るために全力を尽くさなければならないとわかっているのに、なぜか母の奴隷に惹かれる自分を止めることができない。

次期皇帝候補になった4人のうちひとりはEliasの親友Heleneだ。Eliasとは異なり、HeleneはBlackcliffのモットー「Duty First, Unto Death」を信じている。帝国への忠誠心とEliasへの報われぬ愛の間で苦しみながらも次期皇帝を決める恐ろしいテストに挑む。

このテストの勝者は次期皇帝に、次席は次期皇帝に命を捧げる副司令官になる。そして残りの二人に与えられる運命は「死」だ……。

*** *** ***

Twilightの後ではバンパイアやパラノーマル、The Hunger Gamesの後では近未来ディストピア、とYAファンタジーには大ヒットの後に同じような作品の流行がやってくる。でも、しばらくするとみんな飽きてしまうので、別の分野で大ヒットする作品の探索が始まる。

4月末に発売された本書『An Ember in the Ashes』は、そういった新しい分野の引き金になることを期待される作品として出版社が力を入れていることがよくわかる。そして、力を入れるのに値するレベルでもある。
ファンタジーの中ではsword and sorceryというサブカテゴリに属するもので、A Game of Thronesと比べる人がいるし、次期皇帝を決めるテストの部分のせいか、The Hunger Gamesも引き合いに出されている。けれども、私が最も近いと思ったのが、Red Risingだった。主人公のひとりであるEliasの苦悩もRed RisingのDarrowのものと似ている。現在流行のYAファンタジーには登場人物同士のロマンスを読みたい少女向けのものが多いが、この作品は男性読者も満足できる本格派である。恋はあるが、Twilight的ではない。全員にそれ以外の大きなアジェンダがあるので、愛のためにすべてを犠牲にするという(私が苦手な)少女向けのYAファンタジーとSFのような展開にはならない。そこがある種の読者にとっては不満であり、別の読者にとっては魅力であろう。

また、主要人物のLaiaがナヨナヨしていることに不満を抱く読者もいるようだが、私はかえって新鮮さを感じた。大ヒットしたThe Hunger GamesやDivergentのようにティーンの少女がいきなり抑圧された世界を変えるような勇気と力を持つなんて(非現実的なファンタジーであっても)非現実的すぎる。自分の能力の限界を知り、自分の弱さに嫌悪感を抱きつつ、体験を積んで変わっていく、というほうがリアリスティックだと思う。

自分が誰を愛しているのか悩むのもティーンとしては当たり前のことだし、駆け引きするのも当然。

本作品は一応standalone(三部作やシリーズではなく、読み切り作品)ということになっているが、明らかに続きがある。最近三部作やシリーズに飽きているのだけれど、この続きは知りたい。女性読者がたぶんLaiaより好感を抱くHelenaがこのままでは終わらないと思うからだ。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

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