アカデミー主演女優賞作品の原作を書いた著者の最新作テーマはハンチントン病 Inside the O’Briens

著者:Lisa Genova
ハードカバー: 352ページ
出版社: GALLERY Books
ISBN-10: 147671777X
発売日: 2015/4/7
適正年齢:PG15(特に問題な表現はないが、深刻な話題なので高校生以上)
難易度:中級+(とても読みやすい文章。医学や生物学の用語は出てくるけれど、素人向けなので難しくない)
ジャンル:文芸小説(大衆小説)/医学小説(ジャンル小説として)
キーワード:Huntington Disease(ハンチントン病)、難病、遺伝病、遺伝子診断、遺伝カウンセリング、ボストン・チャールズタウン、ボストン警察、アイルランド系移民、家族愛

ボストン警察に勤務する44歳のJoe O’Brienは、アイルランド系カトリックが集中しているチャールズタウン地区で生まれ育った生粋のボストン人だ。高校生のときに知り合った妻のRosieとの間にもうけた4人の子供はみな成長し、それぞれに新しい人生を歩もうとしていた。

家族を愛し、地元でも尊敬されているJoeだが、30代の後半からときおり癇癪を起こしたりするようになっていた。そして、最近では身体がいうことをきかないことがある。手や足が突然奇妙な動きをするのだ。周囲の人はJoeが酔っているのではないかと疑うが、アル中で亡くなった(と噂される)母を覚えているJoeは、酒をほとんど飲まない。家族から促さされてしぶしぶ病院に行ったJoeは、自分が「ハンチントン病」という聴いたこともない遺伝病だと知りショックを受ける。治療法がなく、進行を遅らせる方法もない。しかも、優性遺伝病なので50%の確率で子どもたちにも遺伝しているというのだ。

家族を最も大切にするJoeは、自分と妻の将来を嘆くだけでなく、子供たちの将来を心配して悩む。長男は消防士で、長女はボストン・バレエ団のバレリーナなのだ。ハンチントン病が発症したら、彼らは仕事を続けることができない。遺伝しているかどうかを調べる方法はあるが、知ったところで予防対策はない。Joeのように発症まで知らないでいるほうが幸せではないか? けれども、自分の病はすでに進行しているので一緒に住んでいる家族たちに知らせないわけにはいかない。そして、病名を知らせたらすぐにグーグルで調べるだろうから、こちらから打ち明けなくても分かってしまう。悩んだあげく、JoeとRosieは子供たちを集めて告白した。

長男と長女はすぐに遺伝カウンセリングと遺伝子診断を受けたが、次女のKatieはどうしても決めることができないでいた……。

*** *** ***

2015年アカデミー主演女優賞を受賞した『Still Alice』の原作については、ずっと前に書いたことがあるが、著者のLisa Genovaはベイツ大学を主席で卒業し、ハーバード大の大学院で神経科学の博士号を取得した科学者である。最初自費出版だったStill Aliceが大手出版社から再刊行されてニューヨーク・タイムズ紙ベストセラーになり、その後も脳神経系の疾患をテーマにした小説を書き続けている。今では、「脳神経でのマイケル・クライトン」と呼ぶ人もいるくらいだ。

Lisaの最新作は、「ハンチントン病」という一般人には耳慣れない難病だ。
私も学生時代に習い、実際に患者をひとり知っている。この小説にも出てくるが、発症を止めるすべも、治療もなく、しかも50%の確率で遺伝するという‘the cruelest disease known to man’だ。

本書を読んでまず感じたのが、Lisaが小説家として成長したことだった。アイルランド系のカトリックが昔から住み着いているチャールズタウンの雰囲気や、警察官のJoeの価値観、互いの家族を知り尽くしている小さな町から抜け出したくて抜け出せない次女Katieの心境などが、とてもリアリスティックに描かれている。ただの「難病小説」ではなく、Dennis Lehaneのように街そのものが登場人物として活躍する大衆小説になっている。

彼女の小説の長所は、病や現在の対応策や治療法をきちんと説明しているところだ。そこがよくある「難病小説」とは異なる。特に遺伝しているかどうかを調べられる遺伝病の場合には、調べること以上にカウンセリングが重要になる。予防対策がある疾病とは異なり、ハンチントン病の場合には、遺伝していることが分かっても何の対策もたてられない。ならば知らないで生きているほうが楽なのだが、親が診断を受けてしまったら、子供はもう「知らないで気楽に生きる」ことは選べない。そこで遺伝子の検査をする前にカウンセリングが必要になるのだ。本書では、O’Brien一家の4人の子どもたちの行動を通じて、個々に異なる反応があることを語っている。

救いようのない病に襲われた家族の行方にはハッピーエンドなんてありえない。どうやって小説を終えるつもりなのか不安に思って読み続けたが、安易なものでもなく、けれども難病に立ち向かう人の静かな勇気を示す良いエンディングだった。

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