ピア・プレッシャーに負けずに自分を信じることの難しさを語るYA小説 What We Saw

著者:Aaron Hartzler
ハードカバー: 336ページ
出版社: HarperTeen
ISBN-10: 0062338749
発売日: 2015/9/22
適正年齢:PG12(性的コンテンツはあるけれど、中学校で読んでおくべき本)
難易度:中級(日常的に使う表現はわかりにくいかもしれないけれど、あとは易しい)
ジャンル:YA(ヤングアダルト)/リアリスティックYA(青春小説)
キーワード:レイプ、ソーシャルメディア、初恋、ピア・プレッシャー、倫理観、友情

高校の男子バスケットボールチームが町民の最大のプライドである米国の片田舎が舞台。

女子サッカー部で活躍するKateは、5歳の頃から仲良くしている親友のBenに対して恋心を抱くようになっていた。バスケットボールチームに加わって高校の人気者グループの一員になったBenとはあまり言葉をかわさなくなっていたけれど、チームの花型選手John Dooneの家であったパーティでKateが飲み過ぎてしまったとき、Benはちゃんと家まで送ってきてくれたし、どうやら自分に対して友達以上の感情を抱いているような様子だ……。

初恋に浮かれていたKateは、月曜日に学校で不穏な噂を耳にした。幼いときに仲良しだったStaceyが、土曜日のパーティでスケットボールチームの男子選手たちにレイプされたというのだ。しかも、その現場を撮影したビデオをソーシャルメディアやチャットに載せていたらしい。Kateは、加害者として名前が上がっているJohnがBenに何かを消すように命じているのを耳にする。

学校で人気バスケットボール選手4人が逮捕されたとき、校長、バスケットボールコーチ、生徒の大部分は加害者の男子生徒の擁護にまわった。露出度が高い服を着て酔っ払い、意識不明になっていたStaceyが男子生徒たちにレイプされたのは「自分で求めていたことであり、自業自得」だというのが彼らの見解だった。むしろ、刑事事件になって大学からのリクルートや奨学金の機会を失うバスケットボール選手たちのほうがかわいそうだという人々に囲まれ、Kateは疑問と怒りを感じる。彼女自身も酔っ払って記憶喪失になったではないか。Benが送ってくれなかったら、それは自分にも起こったことかもしれない。

幼いときからの親友たちや、最も尊敬する父親と、人生で初めて異なる意見を持ったKateは、自分がどう行動するべきか悩む。

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BEAのパネルディスカッションの後で著者と
BEAのパネルディスカッションの後で著者と

この本との出会いは、Book Expo AmericaのYA小説のパネルディスカッションだった。
パネルで著者Aaronの話を聞いているときに先日ご紹介したMissoulaのことを思い出し、パネルの後でAaronに声をかけた。そこでさらに話を聞いて興味を抱いたのでNYCからボストンに戻る電車の中で本を開き、その日のうちに読みきるほどのめりこんだ。

2012年に米国オハイオ州Steubenville高校で起こったレイプ事件を元にしたこのYA小説は、男子スポーツ選手による女子生徒のレイプに寛容なアメリカの風土や、ティーンの衝動的なソーシャルメディアの利用などを取り扱っているけれども、テーマ優先の小説ではない。思春期の心の揺れと精神の成長を描く優れた青春小説だ。
大切な人を傷つけ、関係を失ってでも「正しいこと」をするべきかどうか悩むKateの心情に心動かされない読者はいないだろう。

それにしても、男性の著者が描いたとは思えないほど少女の心理が見事に描かれている。高校の地学の授業風景を取り入れながらの「何を信じるべきか?」という問いかけも見事だ。キリスト教原理主義の田舎町で同性愛者として悩み、ラジカルな人生を選んだ著者だからこそだろう。(その回想録Rapture Practiceも次に読んでみたい)

できれば、この本をテーマにティーンや大人が語り合ってほしい。Kateが疑問を覚えたように、「いろんな男子生徒とつきあっている少女ならレイプされても当然なのか?」「隙を見せる女の子のほうが悪いのか?」「友人を庇うのは当然?」とか。

9月に発売なので、忘れないようにぜひご予約を!

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