人気YAファンタジーのパロディ的青春小説 The Rest of Us Just Live Here

著者:Patrick Ness
ハードカバー: 336ページ
出版社: HarperTeen
ISBN-10: 0062403168
発売日: 2015/10/6
適正年齢:PG15(高校生以上。露骨すぎないが、性的なトピック、場面がある)
難易度:中級+(文章も内容もシンプルだが、YAファンタジーを読んだことのない人には理解不可能)
ジャンル:YA(ヤングアダルト)/YAファンタジー/青春小説/パロディ
キーワード:YAファンタジー、Buffy the Vampire Slayer

もともとはティーンエイジャーが対象だったYAファンタジーは、TwilightThe Hunger Gamesのヒットにより読者層を広め、今では読者の半数以上が成人である。出版社が近年力を注ぎ込んでいるサブジャンルでもある。

YAファンタジーは普通のファンタジーと異なり、ティーンが主人公だ。登場人物たちが青春のまっただなかなので、恋や友情、家族関係の悩みが必ず含まれる。そして、主人公はたいてい「ふつうの女の子」。なのにある日スーパーパワーがあることを知り、世界を救うために闘う。

YAファンタジーを読まない人はバカバカしく感じるかもしれないが、読者は面倒な現実から一休みするためにYAファンタジーを読む。だから、主人公本人は気づいていないけれども実は美少女とか、ハンサムな少年ふたりから愛されて悩むとか、たった16歳の少女が自分の命を犠牲にして世界を救うとか、ありえない話をすんなりと受け入れる。現実逃避するなら、なるべく現実から離れていたほうがいいのだ。

こういうYAファンタジーでは、バンパイアや妖精といった主人公の周囲にいる主要登場人物以外は舞台背景扱いされている。特別なパワーもないし、生きていてもいなくてもどっちでもよいマスの存在だ。

Monster Callsでカーネギー・メダルなどの重要な賞を受賞したPatrick Nessは、このYAファンタジーで舞台背景扱いされている「それ以外の少年少女」に注目し、彼らを主人公にした「ファンタジー小説」を書いた。それが本書The Rest of Us Just Live Hereである。

2015年 Book Expo AmericaでのYA作家によるディスカッション。「難しい社会テーマをどう描くか?」
2015年 Book Expo AmericaでのYA作家によるディスカッション。“Talking to Teens About Tough Topics”「タフなトピックをティーンに伝える」左から、『What We Saw』の著者Aaron Hartzler、『Traffick』の著者Ellen Hopkins, 『The Rest of Us Just Live Here』の著者Patrick Ness、『A Suicide Notes from Beautiful Girls』の 著者Lynn Weingarten、『A Step Toward Falling』の著者Cammie McGovern。

Patrick Ness上記のBook Expo AmericaのパネルディスカッションでNessの話を聞いた私は、ディスカッションが終了した後で本人に会い、本ブログ『これを読まずして年は越せないで賞』でMonster Calls が児童書の最優秀賞になったことなどを話して新刊にサインしてもらった。

『The Rest of Us Just Live Here』の主人公のMikeは「自分には価値がない」と感じているOCD(Obsessive Compulsive Disorder、強迫性障害)に悩む少年である。4分の1猫の神様というゲイの親友、摂食障害がある姉、恋を打ち明けられない親しい女の子というメンバーは、YAファンタジーなら「その他大勢」の背景かもしれないが、相当ユニークである。そこにも「ほらね、ふつうの人だって、こんなにふつうじゃないでしょ?」という著者のメッセージを感じる。

各章の冒頭には、彼らの日常生活の背景で起こっているYAファンタジーの梗概が載っていて、これもパロディとして面白い。主要なストーリーは青春小説なのだけれど、進むにつれてこれら二つの世界が次第に混じり、最後にはYAファンタジー+青春小説になっている。

ただのパロディで終わらず、少しジンワリさせるところがさすがPatrick Nessだと感心した。

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