著者:Wendy Suzuki
ハードカバー: 320ページ
出版社: Dey Street Books
ISBN-10: 0062366785
発売日: 2015/5/19
適正年齢:PG12(内容としては高校生以上のほうがわかりやすい)
難易度:中級(医学用語も出てくるので英語ネイティブには難しく感じるかもしれないが、受験英語を学んでいる日本人にはかえって読みやすい英語)
ジャンル:ノンフィクション(医療、健康、ライフサイエンス)/回想録/自己啓発
キーワード:脳科学、エクササイズ、家族愛、恋愛、健康、記憶、海馬、クリエイティビティ、幸福
日本にいる人には想像し難いかもしれないが、先祖が第二次世界大戦前にアメリカに移住した日系アメリカ人の家族は、私のように最近アメリカに移住した日本人よりもずっと旧来の日本の文化を引き継いでいる。
私と同年代の友人と、カリフォルニアで生まれ育った日系三世Wendy Suzukiが語る両親の話はとてもよく似ている。
親は子供が学校で良い成績を取り、成長したら医師、弁護士、学者のいずれかを選ぶよう期待する。また、アメリカ人が得意な”I love you”は口にしないし、ハグやキスなんてこともしない。
Wendyの場合は、親が押し付けなくても数学や科学が大好きで、子供の頃から興味があった脳科学にのめりこんだ。
研究者としても重要な賞を受賞して成功し、名門のニューヨーク大学でテニュア(終身雇用)の教授の地位も得た。科学の分野で女性としてここまで達成するのは、アメリカでも稀なことだ。才能が欠けているからではなく、女性は結婚(夫の転勤や夫の仕事を支える)、出産、育児で脱落していくのだ。
研究が大好きで、仕事一途だったWendyは、40歳を前にして突然自分の人生に疑問を抱いた。
気づいたら、運動不足と美食で肥満し、恋もせず、人間関係もない。
そこでWendyは、自分の研究分野の脳科学に従って自分の人生を変えることを決意した。本書は、Wendyが辿った変身のジャーニーであり、エクササイズが脳の能力を促進させ、幸福感を与え、人生そのものを変えていくことを実証した脳科学の本でもある。
「こうすれば脳が健康になる!」といったステップ・バイ・ステップの本を期待したら失望する。
本書は、Wendyと一緒にゆっくり「悟り」の旅をすることに意義があるのだ。
たとえば、「エクササイズはうつに効果がある」という見出しだけの記事では、眉唾だと思う人がいるだろうが、Wendyは自分自身がエクササイズでスリムになり、健康でハッピーになった体験と合わせ、脳の中で何が起こったのかを説明してくれる。これは、身を持って体験した脳科学にしかできないことだ。
恋の相手を探すWendyの体験も率直で面白かった。若いころにフランスで恋した若者との思い出や、20数年経ってから彼にようやく「ごめん」と伝えたところでは目頭が熱くなった。
この本は、脳科学バージョンの『Eat, Pray, Love』だと思う。脳の働きや、記憶のメカニズムなどの専門的な部分に興味がない人は、それを飛ばして読むこともできるので、挑戦してみてほしい。エクササイズによって実際に脳の能力が高まり、幸福感も高まるというのは、実験でも検証されていることである。それさえ分かれば、「やってみよう」という気になるだろう。読者がそれで幸福になれば、全部読まなくても著者は十分嬉しいと思う。
本人にサインしてもらったときにちょっとおしゃべりしたが、学生に人気がありそうな素敵な女性だった。
WendyのTED Talkもぜひどうぞ。