『愛と哀しみの果て』原作者の恋人デニスを愛した奔放な女性パイロットの半生 Circling the Sun

著者:Paula McLain(その他の著作:The Paris Wife
ハードカバー: 384ページ
出版社: Ballantine Books
ISBN-10: 0345534182
発売日: 2015/7/28
適正年齢:PG 15(性的コンテツあり。高校生以上)
難易度:上級(だが、大人向けのフィクションとしては読みやすいほう)
ジャンル:歴史小説(実話をもとにしている)/大衆小説
キーワード:Beryl Markham、 Denys Finch Hatton、Karen Blixen、Out of Africa アフリカの日々)、映画『愛と哀しみの果て 』、アフリカ、ケニヤ

ロバート・レッドフォードがデニス・フィンチ・ハットン(Denys Finch Hatton)、メリル・ストリープがカレン・ブリクセン(Karen Blixen)を演じた、映画『愛と哀しみの果て (Out of Africa)』を知る人は多いだろう。カレン・ブリクセン本人(ペンネームはIsak Dinesen)が書いた回想録Out of Africa (邦題『アフリカの日々』)が原作で、つまり実話を元にしたものだ。

Beryl_Markham_1936
パブリックドメインの写真(ウィキペディアより)。実際にはもっと美人なので、興味がある方はご自分でググられますように。

映画や原作でもDenysは結婚や世間のしきたりに縛られたくない自由奔放な男性として描かれているが、実際にKarenと深い関係にある最中に、Denysは別の女性とも情事を持っていた。しかも、Karenに負けず劣らず美しく、タフで、才能あふれ、歴史に残る快挙を成し遂げた女性だった。

Circling the Sunは、その女性Beryl Markhamの半生を描いた歴史小説である。

優れた調教師だったBerylの父親は、彼女が4歳のときに家族を連れてケニヤ(当時はイギリス領東アフリカ)に渡った。厳しい自然に囲まれた農地の生活に慣れなかった母は、長男だけを連れてイギリスに戻ってしまう。母がいなくて父にも放任されていたBerylは、父の農場の近くに住むキプシギス族から家族同様に育てられ、未来の族長を約束されている少年と親しくなる。

父を手伝って調教師としての腕もみがくが、経営に行き詰まって農場を売った父が愛人と二人だけの生活を始めることになり、行き場を失った16歳のBerylは近所の農場主と結婚する。けれども夫婦関係はすぐに覚め、Berylはアフリカで初めての女性調教師への道を歩み始める。そのころ偶然出会ったDenysに強く惹かれるものを感じるが、彼にはすでにKarenという魅力的な恋人がいた……。

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Berylは実に興味深い女性だ。

女性としてケニヤで初めて馬の調教師の資格を取り(英国ではまだ女性調教師は認められていなかった)、女性として初めて東から西への大西洋横断単独フライトを成し遂げ、3回結婚し、数々の恋人を持ち、英国のジョージ五世の子息ヘンリー王子との情事も噂された。ヘミングウェイが二番目の妻を連れてアフリカに会いに行ったことがあるようだが、彼はモーションをかけてつれなくされたらしい(これも噂だが)。幼なじみのキプシギス族の男性とは一生を通じて深い友情関係を続け、一緒にビジネスもやった。これも、当時では非常に常識を超えた行動である。

Berylは世間体や人の噂は気にせず、常識を無視した。Out of Africaの著者Karen Blixenとは親しい間柄だったのに、彼女が心から愛したDenysとも関係を持った。友人の心より自分たちの欲求を優先するというBerylに読者は呆れるかもしれない。ヘミングウェイの最初の妻を描いた小説The Paris Wifeの作者Paula McLainはたぶん実際のBerylより好感度を上げようと努力したと思うが、それでも「う〜ん」と思う場面は多い。

感情移入しにくい女主人公の一人称を読むのはときに難しい。

けれども、自分とはまったく異なる人の視点や人生を体験できるのが小説の素晴らしさでもある。Berylみたいな女性の人生なんて、そう簡単に生きられない。

そう気持ちを切り替えると、きっと誰でも楽しむことができる歴史小説である。

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