思春期の複雑な心理をリリカルに描くニューベリー受賞作家レベッカ・ステッドの新作 Goodbye Stranger

著者:Rebecca Stead (When You Reach Me, Liar and Spy)
ハードカバー: 288ページ
出版社: Andersen
ISBN-10: 1783443197
発売日: 2015/9/3
適正年齢:PG 10(小学校高学年〜高校)
難易度:中級+(英語そのものはシンプルだが、内容を理解するのには努力を要する)
ジャンル:児童書/YA(主に小学校高学年から中学生向け)
キーワード:思春期、中学校でよくある問題、ソーシャルメディア、友情、初恋、成長、ニューヨーク

8歳のときの交通事故で奇跡的に生き延びたBridgeは、”You must have been put on this earth for a reason(あなたが生まれてきたのにはきっと理由があるのだろう)”という看護師の言葉を中学生になった今でも覚えている。でも、その「理由」が何なのかはわからない。

小学校からの親友TabithaとEmily三人の間には「けっして喧嘩をしない」という約束事がある。それを守って中学生になってからも仲良しだったけれど、Tabithaは尊敬する教師の影響でフェミニズムにどっぷりはまりこみ、一足先に身体が大人びてきたEmilyには憧れの上級生ができ、Bridgeは猫耳カチューシャをつけて学校に通いはじめて少し三人の仲が変わってくる。

演劇の大道具に加わったBridgeはShermというちょっとギークな少年と仲良くなるけれど、彼が自分にとってどういう存在なのかはよくわからない。

見慣れていた世界が変わっていくなか、Emilyがボーイフレンド未満の上級生とスマホで写真を交換しはじめる。それをきっかけに「けんかはしない」という約束だった三人の関係がギクシャクしてくる。

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Rebecca Steadと並んで記念撮影。とっても奥ゆかしくて好感度100%の女性
Rebecca Steadと並んで記念撮影。とっても奥ゆかしくて好感度100%の女性

ニューベリー賞受賞者のRebecca Stead(レベッカ・ステッド)の新作『Goodbye Stranger』のターゲット読者層は、人気ジャンルの児童書とYAの間で忘れられがちな中学生である。小学生を対象にした児童書では恋や性の問題は扱われないし、高校生が対象のYAではいきなりきわどい描写が出てくる。でも、実際にはその中間に身体の変化や心の変化に戸惑う「中学生」の時代があるのだ。私の取材でもアメリカでは中学校が一番イジメや性的な問題が起きやすいと聞いた。

この本はその不安定な中学生たちを扱った小説だが、ふつうのYAのような感じではない。ストレートな展開ではなく、主人公の心理表現のあいまいでリリカルな感じが江國香織を少し連想させる(私が読んだのは昔の作品だし、特に似ているというわけではないが)。猫耳をつける少女とか、アメリカの読者より日本の読者のほうが理解できそうな気もする。(というか、これを不思議には思わないだろう)

Steadの魅力は児童書(YA)だからといって文章をおろそかにしないことだ。登場人物だけではなくニューヨークという街を鮮やかに描いているのもいい。だから、児童書作家なのに大人の読者やファンが多い。

だが、それが児童書としての問題にもなっていると私は思う。

たとえば、このGoodbye Strangerには、Bridgeというわかりやすい主人公を取り囲む日常のほかに、名前がわからない女子高校生のバレンタインデーの話が並行して進む。この女子高校生がメインの物語についてどんな意味を持つのかよくわからず、物語にすんなり入り込めないのは問題だ。

When You Reach Meも、じっくり読まないと混乱する小説であり、知り合いの読書中毒の中学生でも混乱していた。

そういった意味で、本書に完璧に満足したわけではないが、巷にあふれる児童書やYA小説と比較するとはるかに優れた小説だ。「駄作でも売れればいい」というタイプのYA小説があふれる出版業界でこういう上質の児童書を書き続けてくれるSteadと彼女の本はおおいに応援したい。読みにくくても、読む価値がある本だからだ。

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