マンハッタンのスーパーリッチの世界に加わろうとして燃え尽きた女性の悲喜劇 Everybody Rise

著者:Stephanie Clifford
ハードカバー: 384ページ
出版社: St. Martin’s Press
ISBN-10: 1250085578
発売日: 2015/8/18
適正年齢:PG15(マイルドな性的コンテンツ)
難易度:中級+(文章そのものはシンプル。ただし日本の英語の教科書には出てこない日常用語が多い)
ジャンル:大衆小説/現代小説
キーワード:マンハッタン・アッパーイーストサイド、超リッチ、オールドマネー、社交

このテーマについても語っている、ケイクスでの私の連載『アメリカはいつも夢見ている』もぜひどうぞ!

リーマン・ショック前夜の2006年。ウォール街では年収2億円から3億円を稼ぐ若者たちがあふれていた。

金持ちが多いニューヨーク市マンハッタンでも、Park Avenue(パーク街)があるアッパーイーストサイドは超リッチな上流階級だけが加われる特別な社会を形成している。Evelynは、この特殊な上流階級の子弟が行く私立高校で友達を作ることには成功したが、卒業して何年たっても彼らに引け目を感じている。彼女自身も裕福な家庭で育ったのだが、一代で富を築いた弁護士の父親は出費にうるさいので友達と同じ贅沢はできない。しかも、母親はEvelynにオールドマネーの息子と結婚するようしつこく迫る。

26歳になったEvelynは、家庭が裕福なだけでなく仕事でも成功している友達に囲まれて焦りを覚えていたが、ようやく”People Like Us”というスタートアップで要職を得て野心を抱く。”People Like Us”は世界の上流階級しか加わることができないソーシャルメディアで、Evelynの役割はマンハッタンのアッパーイーストサイドの超エリートをリクルートすることだった。

超エリートを魅了するための超エリートをようやくみつけて親密になったEvelynだが、彼女の世界に受け入れてもらうためには給料をはるかに超える出費が必要だ。しかも、社交界デビューの舞踏会「デビュタントボール」の手伝いをしたら、仕事をしている暇がないほど忙しい。家族の問題も重なり、Evelynの世界は瞬く間に崩壊していく。

*** *** ***

ニューヨークのマンハッタンで暮らすためにはすごくお金が必要なので、そこで何の心配もなく暮らしている人たちは全米基準ではすでに「超リッチ」である。でも、その超リッチの中でも、マンハッタンのアッパーイーストサイド(といってもパークアベニューあたりの特別な区画のみ)は格が違うと言われている。

F.スコット・フィッツジェラルドのThe Great Gatsby、トルーマン・カポーテのBreakfast at Tiffany’s、J.D.サリンジャーのCatcher in the Rye、トム・ウルフのThe Bonfire of the Vanities、とアッパーイーストサイドとその住民を題材にした小説は昔から沢山ある。それでも常に新しい本が出る。時代が移り変わっても、超リッチの世界への好奇心は変わらないのだ。

そして、多くの小説の登場人物がそうであるように、上流階級に生まれ育った自然体の人々への羨望や、そこに加わる野心は燃え尽きることになっている。当人にとっては悲劇だが、傍から見ていると喜劇である。

それぞれの小説の出来を決めるのは、読者がその悲喜劇を楽しめるかどうかという点だ。

Everybody Riseにも好奇心を満足させてくれるような娯楽性はある。夏の保養地に行くときに必須のクジラのパターンのベルトとかリリー・ピュリッツアーのサマードレスとか、私もEvelynのように(暗黙の示唆として)姑からプレゼントされたことがあるので「あるある!」と笑ってしまった。でも、ストーリーとしては先が見えるし、さほど劇的なことも起こらない。人物の分析も表層的で主人公に魅力を感じない。だから途中で飽きてしまった。

ところで、Evelynは架空の人物だが、今年刊行された回想録After Perfectの著者と似たところがある。

また、同時期に同じテーマの下記のノンフィクションも出ている。

Primates of Park Avenue

著者:Wednesday Martin
ハードカバー: 256ページ
出版社: Simon & Schuster
ISBN-10: 1476762627
発売日: 2015/6/2
適正年齢:PG15
難易度:中級+
ジャンル:回想録
キーワード:マンハッタンアッパーイーストサイド、超リッチ、母親同士の競争、文化人類学

こちらのほうは、超リッチの夫と一緒にアッパーイーストサイドに移住した女性の体験談だ。

アッパーイーストサイドでは、生後3ヶ月くらいから早期英才教育の激しい競争が始まる。年に3百万〜4百万円もかかる幼児教室の入学すら競争で、アイビー・リーグ大学入学は夢ではなく、当然のこととみなされている。そこに合格する前の私立学校の歴史や親の質も重要で、それらから外れる子供の親はのけものになる。

超リッチな母親たちは、最もトレンディなエクササイズで超スリムな体型を保ち、エルメスのバーキンを持って、チャリティイベントのミーティングに行く。彼女たちはメンツを失うことを最も嫌い、このレベルを保てない人は仲間はずれにされる。日本のママ友イジメと似たようなものだ。

これらの本の存在意義は、「私は超リッチでなくてよかった!ラッキ〜!」と庶民を満足させてくれることなのだろう。

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