世界の終わりが突然やってきたら、人類はどう対処するのか? ナードな宇宙ファンにお薦めの超大作SF Seveneves

著者:Neal Stephenson(ほかに、Anathem, Snow Crashなど)
ハードカバー: 880ページ
出版社: William Morrow
ISBN-10: 0062190377
発売日: 2015/5/19
適正年齢:PG12(性的話題はあるがドライで描写はほとんどない、バイオレンスもあるが過剰な描写ではない)
難易度:中級(技術的な用語は非常に多いが、それらは英語ネイティブにも難しい。英語そのものは日本人にわかりやすいシンプルな文章。)
ジャンル:SF
キーワード:近未来SF、人類存亡の危機、宇宙開発、スペースステーション
おすすめするタイプ:宇宙オタク、小説The Martianや映画Gravityが好きな人

ある日、何の前触れもなく、月が破壊した。
月に衝突して深部まで達したAgent(外部からの何らかの物質)が、奥深い場所でエネルギーを放出したというのが仮説のひとつだった。

分解して7つの衛星になった月は総合的に同じmassを保っていたので地球の潮の満ち引きにも影響はなく、当初はただのショッキングな光景でしかなかった。だが、7つのうち2つが衝突して8つになったとき、世界中の専門家は同時に恐ろしい未来を悟った。

衛星の数が増えれば増えるほど衝突の頻度は上がり、衝突により衛星の数も増えていく。そして、最終的には月の残骸は土星の輪のようになる。問題は、衝突を繰り返して細かくなった衛星が地球に降り落ちて地球上の動植物を壊滅させる”Hard Rain”が2年後に始まるということだ。

メディアで人気の天文物理学者Dubois Jerome Xavier Harris博士(通称 Doc DuboisあるいはDoob)は、そのHard Rainが5000年から10000年継続するという最悪のニュースを大統領に伝えた。

女性でしかも歴代最年少の大統領Julia Bliss Flaherty(通称JBF)は、すぐさま「人類を継続させる」ための対策と、地上で死を迎える大部分の国民を落ち着かせるPR対策を取る。そのひとつは、ISS(国際宇宙ステーション)にすでにいる女性船長のIvyとロボット工学専門のDinahたちを帰還させず、ISSを未来に命を繋ぐ専門家や若者を送り込む居住スペース建設のハブにすることだ。

2年という限られた期間に居住スペースを建設するという不可能に近い目標をこなすために事故は頻発し、それぞれの国の思惑で現場は揺れ動き、宇宙飛行士たちは次々と危機に直面する。そして、人類を未来に残すために選ばれた、普通の人々は、地球へのHard Rainを目撃したトラウマで疑心暗鬼になり、異様な行動を取る。それがISSの中心人物たちの運命をも大きく変えてしまう。

*** *** ***

人類が死滅する危機に直面するSFはこれまでにも沢山あったが、この小説はリアリスティックさではダントツだ。それもそのはず、著者のStephensonは生粋の科学ナードなのである。父方の祖父は物理学の大学教授で、父は電子工学の大学教授、母方の祖父は生化学の教授で、母も生化学の研究室で働いていた。そんな「科学一家」で生まれ育ったStephensonは大学で物理学、地理学を学び、作家活動をしながらアマゾンの創始者ジェフ・ベゾスが創始した航空宇宙産業の会社Blue Originのアドバイザーなんかもやっている。

Sevenevesは、通常のSFを超えてときに科学ノンフィクションみたいだ。宇宙ステーションの状況や物理現象や事故の専門的な説明には「すごい!」と感心するのだけれど、ちゃんと理解できているという自信はまったくない。そのうえ、この緻密な解説がびっしり詰まった900ページの分厚さなのだ。宇宙オタクならこの小説のそんなところを愛するのだが、そうでない人は飽きて飛ばしたくなるだろう。どちらのタイプかでStephensonの好き嫌いは決まる。

私はけっこうこの細かさが好きで、3分の2を終えるまでは「まちがいなく今年の最高傑作のひとつ!」と思っていた。だが、Part 2で5000年後になったとたんに質ががくんと落ちてしまって驚いた。まるで著者本人がこの小説に飽きて早く書き終えたくなったかのように、駆け足でフィナーレになる。なんだか、あっけにとられてしまった。

だが、それとは別に風刺小説的な面白さもあった。政治経済にも詳しく風刺も得意なStephensonなので、Sevenevesの登場人物の何人かは実存の人物を連想させる。天文物理学者Dubois Jerome Xavier Harris博士は完璧にNeil DeGrasse Tysonだし、変わり者の億万長者でしかもヒロイックな行動をするSean ProbstはJeff Bezosがモデルだと想像できる。ただし、女性大統領のモデルがヒラリー・クリントンだとすれば、相当彼女に偏見を抱いているに違いない。

ところで、左から読んでも右から読んでも同じの言葉遊びのタイトル「Seveneves」はseven eves(7人のイヴ)を意味している。解説するとネタバレになるからやめるが、女性の主要人物が多いわりに”bitch”と憎まれそうな性格ばかりなのはどうしたわけだろう? 彼女たちに比べて、脇役に徹している男性の登場人物たちは性格に欠陥があっても勇敢に自分を犠牲にするヒーローばかりだ。日本人男性のJiroも登場するが、彼も同様である。もしかして、Stephensonは女性が心底苦手なのかもしれない。……といった余計なことも考えてしまったが、たとえ彼が女性嫌いでも、小説そのものはとても面白くて長さを感じなかった。英語もシンプルなので、SFが好きな人は読みやすいだろう

最後の3分の1には完全には満足していないが、それでも多くの人にお薦めできる超大作だ。

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