ネット時代の若者の恋愛は変わったのか?アメリカの人気コメディアンが書いた恋愛の社会学 Modern Romance

著者:Aziz Ansari、Eric M. Klinenberg
ハードカバー: 288ページ
出版社: Allen Lane
ISBN-10: 0241211832
発売日: 2015/6/18
適正年齢:PG15(高校生〜)
難易度:中級(日本の学校で教えないアメリカの日常用語のほうが難しく感じるだろう)
ジャンル:ノンフィクション/社会学(恋愛)/ユーモア
キーワード:ネット恋愛、ネット結婚・デート紹介サービス、ソーシャルメディア、結婚観、恋愛観、草食男子

日本ではほぼ無名の存在だが、Aziz Ansariはアメリカの若者の間で大人気のコメディアンだ。
両親はインド出身のイスラム教徒で、父親は消化器系の専門医、高校までは理数系の進学校……という「真面目で優秀なインド系アメリカ人」のステレオタイプだったのに、なぜか無宗教のスタンドアップコメディアン(日本の漫才を一人でやるような感じ)になってしまったというユニークな人物である。今はテレビのコメディ・ドラマで俳優もやっている。

私もAzizのライブを観たことがあるが、とんでもないことを口にしているときでも知性が透けて見える。そういうところが大学生にウケるところだろう。

今年になって「Azizが本を書いた」という噂を聞いたときには「よくあるユーモア回想録だろう」と思った。人気コメディアンの回想録は沢山あるし、しかもよく売れる。Azizが書いたものならニューヨーク・タイムズ・ベストセラーリストのナンバー1まちがいなしだ。

ところが、Azizが書いたのは回想録ではない。ニューヨーク大学の社会学教授・Eric M. Klinenbergと共著した「恋愛の社会学」のレポートである。こういうところが普通のコメディアンとは違う。

社会学の本だからちゃんと調査もしているし、データもある。それを示すグラフも沢山掲載されているのでハードカバーで読もうと思ったのだが、読み比べた後でオーディオブックのほうを選んだ(データも言葉で説明してくれる)。なんといっても、Aziz自身が読んでいるのがいい。紙媒体で読むよりもずっとユーモアのセンスを感じる。

内内容は、インターネットによって男女の恋愛・結婚観や行動がいかに変わったのかを検証するものだ。
2世代前には人々は自宅の周辺で結婚相手を見つけ、最高にハッピーではなくても、まあまあ満足して添い遂げた。ところが現在はTinderといったスマートフォンアプリで数えきれないほどの「潜在的デート相手」を得られる。(そういう話題については、ケイクスでも紹介した)。
その結果、昔なら全然モテなかったような男性ですらより好みをするようになった。選択が多すぎて「相手を決められない」し、ようやく決めて付き合っても「もっといい女がほかにいるんじゃないか」と満足できない。この点ではかえって不幸になっているとも言える。また、付き合っている相手と別れるときもテキストメッセージで1行程度である。実際に会うどころか電話もかけない。

そんな現代の男女の恋愛観は根本的に昔の人と違うのだろうか?
世界はましになったのだろうか?

そういうことをデータやAziz自身の体験から語っていくこの本は、Azizのスタンドアップコメディを聞いているような感じで楽しめる。

やはり、というか、現地調査(field study)のひとつに選ばれたのは東京だ。有名な「草食男子」がいるからだ。それと「美味しいラーメンがある」かららしい。海外の人にとって日本や東京がどれほど異質に見えるのかを読むのも面白い。ちなみに東京と対極にある都市はアルゼンチンのブエノスアイレスだということだが、これは初耳だった。

この本を読んでいくうちに、「やはりアメリカはまだまだ結婚や恋愛を信じている国なんだなあ」と再認識したのであった。

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