著者:Ilana C. Myer(新人)
ハードカバー: 400ページ
出版社: Tor Books
ISBN-10: 0765378302
発売日: 2015/9/29
適正年齢:PG15(やや性的コンテンツあり)
難易度:上級(文章はシンプルだが、文学的。理解するためにはファンタジーやSFを読み慣れている必要あり)
ジャンル:ファンタジー
キーワード:魔力、魔術、抒情詩、吟遊詩人、宮廷詩人、政治、クエスト
これを読まずして年は越せないで賞候補(渡辺推薦)
これらの本が好きな読者にお薦め:The Name of the Wind , Tigana
かつてEivarでは、アカデミーで教育を受けた詩人が奏でるハープと歌声が魔法そのものだった。アカデミーの力は偉大で、宮廷はそんな抒情詩人たちを恐れ、二つの勢力の間には緊張感があった。けれども、いまでは宮廷おかかえのcourt poet(宮廷詩人)が国の政治を司り、宮廷がアカデミーを抑えこんでいる。
世界に満ち溢れていた魔力は枯れ果ててしまったが、いっぽうで誰かが人を殺して得た血を使う黒魔術を行っていた。そのために世界が病み、疫病が流行り始めていた。
音楽に魔力がなくなった今でもアカデミー卒の抒情詩人は人々の憧れの的であり、ミッドサマーフェスティバルで行われるコンテストで優勝した者には歴史に残る栄誉だけでなく、重要な地位が約束されていた。
アカデミーに入学できるのは男性だけだが、密かにコンテスト出場をめざしている女性詩人がいた。食べるのにも困るほどの貧困に耐えて音楽を奏でるLinは、高貴な生まれだが、残忍な兄から逃れるために匿名を使い、身を隠していた。兄に見つかるリスクを取ってまで抒情詩を歌ってきたLinは、フェスティバル寸前に伝説化している偉大な詩人Valanir Ocuneに会い、世界の運命を左右する大きな流れに飲み込まれてしまう。
著者のMyerは、これまでthe Globe and Mail, the Los Angeles Review of Books, Salonなどに記事を書いてきた経歴を持つが、小説家としてはLast Song Before Nightがデビュー作である。だが、デビュー作とは思えないほど熟練した筆さばきであり、クラシックのような読み応えがある。
最初読み始めたときには、通常のファンタジー読者はDarienという若き詩人が世界を救うクエスト物語だと思うかもしれない。YAファンタジーファンはロマンスを期待するかもしれない。
だが、プロットだけでなく、登場人物についてもMyerは良い意味で読者を裏切ってくれる。徹底的に悪どいキャラクターもいるが、そのほかは全員が美醜入り混じった複雑な存在である。女性がタブーとされる世界に飛び込んでいくLinも、YAファンタジーの女性主人公によくあるような「非現実的に勇敢なタイプ」ではない。それぞれの登場人物が、苦難の末に本人すら知らない自分の姿を発見していくのも、このファンタジーの「クエスト」の一部だ。
Hugo賞などのノミネートも期待される傑作であり、今年1冊だけファンタジーに挑戦するなら本作をお薦めしたい(今後ほかにも出てくるかもしれないけれど)。
1 thought on “今年一冊だけファンタジーを読むならこのデビュー作! Last Song Before Night”