疲れたときには、笑えるドタバタロマンス小説をどうぞ!

疲れを取るための「娯楽」として、ミステリ(とくにコージー・ミステリ)を選ぶ人、ホラーを選ぶ人、ファンタジーを選ぶ人……などいろいろいます。6前にも書いたことなのですが、ロマンス小説作家だけでなくファンのプロファイルもなかなか素敵です。「1日中バリバリ仕事をした後に難しい本は読みたくない」とおっしゃった専門職の方がいましたが、その感覚はわかります。そもそも読書は楽しむべきものですからね!

ロマンスのジャンルの中で私が好きなのはジェイン・オースティンが開発してくれた「リージェンシー(イギリス摂政時代)・ロマンス」を代表とするヒストリカルロマンスです。オースティンの作品は全部好きですが、軽く楽しむとしたらEmmaです。オースティンのヒロインの中では最も欠陥だらけのEmmaと、彼女のおせっかいが引き起こす問題、その解決を助けるヒーロー……と深刻にならずに楽しめるロマンスです。

もちろん胸が痛くなるような悲恋の小説も良いのですが、疲れたときには、ユーモアたっぷりのやりとりがあり、つい吹き出すようなコメディ的シチュエーションのromp(ドタバタ喜劇)がぴったり(でも、歴史的背景無視でセックスシーン入れすぎのヒストリカルロマンスやヒロインがアホすぎるのはイライラしちゃうので苦手)。

私が好きなrompの感覚は、たとえばビクトリア時代に活躍したオスカー・ワイルドです。有名な舞台劇『The Importance of Being Earnest 』や『An Ideal Husband』は今ではなんとなく高尚な古典扱いされていますが、根本的にはドタバタ劇です。小さな嘘と偶然の重なりで恋人同士の誤解がややこしくなっていくパターンは馬鹿げていますが、クレバーなやりとりが最高です。シリアスな小説『The Picture of Dorian Gray』でも、登場人物の台詞に上質の皮肉な笑いが込められていて、そこも味わい深いものです。(脚本を読むよりも、オーディオブックのほうが面白いのでおすすめ)

オースティンやワイルドの時代より後の作家でrompが得意なのが、以前にもご紹介したGeorgette Heyerです。
数多い作品を産んだ作家なので近いうちにそれらをまとめてご紹介したいのですが、中でもワイルド的なrompとして楽しめるのが下記の作品です。
リージェンシー時代に「ton」と呼ばれたスタイリッシュな上層階級にはいろいろな紳士淑女のルールがあり、『The Grand Sophy』の主人公Sophyはそのtonの常識から大きく外れる愉快な女性です。どうしようもないメンバーが揃った貴族の家庭に奇想天外な従姉のSophyが現れ、どんどん難問を解決していきます。いとこや叔父、叔母のお馬鹿さがワイルドの『The Importance of Being Earnest 』的です。HeyerはAustenより性についての話題がありますが(放蕩者の男性に対するrakeという表現が出てくるのもHeyerです。でも描写はキスのみです。)

日本の洋書ロマンス小説ファンは、以前にご紹介したような有名作家たちの作品はすでによくご存知ですから、今日はあまり知られていないインディな作品をご紹介しようと思います
ヒストリカルロマンスには限りません。適正年齢の順に並べました。

●The Poor Relation series
アガサ・レーズンシリーズでお馴染みのM.C.Beatonによるリージェンシーもの。
ロマンスの要素はあるものの、ドタバタ喜劇要素のほうが強く、男性読者も楽しんでいるようです。親や家族のギャンブルや借金のおかげで貧乏だけれども、貴族ゆえに仕事につけない人がけっこういて、彼らは親族から「poor relation」として無視されていました。そんな人たちが集まってホテル経営を始めたというシリーズで、登場人物全員がカラフルなキャラクター。ページ数が少なく、非常に軽い読み物。PG15(セックスシーンほとんどなし)。

●Spotless
フランス生まれで、英語圏で育ち、日本でフランス語と英語を教え、現在は広告代理業をやっているという面白い経歴の作家。
IT業界で働くヒロインはいい年をしてボーイフレンドなしのバージン。その彼女が突然プロの殺し屋に誘拐されてしまいます。東京での事故で死んだ母が巨大なダイヤモンドを隠していて、暗黒組織がその行方を追っているらしいのです。OCD(強迫性障害)があって、散らかっているものが許せない暗殺者とナードなヒロインのドタバタロマンス(未満)劇が奇妙に魅力的。ちょっとストックホルム症候群的なところが気になるけれど、笑いが多くて、冒険もたっぷり。日本で暮らしていた作家なので日本のシーンもあります。シリーズ第一作で、ヒロインとヒーローの続きが気になるところ。R(性的な話題は沢山あり、シーンもある。でも通常のロマンス小説のような描写はなし)

●Duke’s Holiday
本業は音楽家で、趣味としてロマンス小説を書いているという作家。ほかにも別名でビクトリア朝スティームパンクロマンスを書いているとのこと。
子ども時代に受けたトラウマの後遺症とOCD(強迫性障害)がある几帳面なDukeと、彼の秩序を狂わせる強気なヒロインがぶつかり合う、という設定。やや現代的すぎるのが欠陥だけれども、ドタバタ劇は面白く、ロマンチック度も高い。R+(通常のロマンス小説程度のセックスシーン)。

●Ridiculous
母と妹たちが露頭に迷わないようヒロインが男装して死んだ従兄になりきる、というタイトルどおりの馬鹿げた設定。頭脳明晰でコメディアンのような男装ヒロインが、スタイリッシュで美男のDukeに一目惚れするのだけれど、彼からは「面白くて頼りになる友人」とみなされるだけだし、シャイな妹からは恋されてしまう。Dukeよりもヒロインが魅力的で、通常のヒストリカルロマンスとは趣向がまったく異なる、面白いロマンス。R+(前半はPG15だが、後半セックスシーンあり)

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

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