フィクションとしての壮大な仕掛けに息を呑む、Life After Lifeのコンパニオン小説 A God in Ruins

著者:Kate Atkinson (Life After Life, Case Histories, Behind The Scenes At The Museumなどの著者、コスタ賞受賞作家)
ハードカバー: 480ページ
出版社: Little, Brown and Company
ISBN-10: 0316176532
発売日: 2015/5/5
適正年齢:PG 15
難易度:最上級レベル(文章を直訳するだけでは小説そのものを理解できないという意味で難易度が高い)
ジャンル:文芸小説
キーワード:戦争、人生、運命、第二次世界大戦、イギリス空軍、戦略爆撃

AtkinsonのLife After Lifeは、『ジャンル別 洋書ベスト500』の執筆中に発売され、読んで気に入ったので大急ぎで収めた作品。その後、著名なコスタ賞を受賞した。A God in Ruinsは、Life After Lifeと同じ家族を扱っているが、続編ではない。著者はcompanion novelと呼んでおり、ひとつの大きなテーマを二つの異なる小説で表現している。

Life After Lifeを読んだ人なら覚えていると思うが、何度も人生を生き直す主人公Ursulaのお気に入りは弟のTeddyだった。美しくも冷たい母が唯一愛したのもTeddyだ。

A God in Ruinsでは、そのTeddyが主人公だ。イギリス空軍の爆撃パイロットになったTeddyは、Life After Lifeでの多くのバージョンとは異なり、戦争から無事生還する。そして、幼なじみと結婚し、娘と孫を持つ。戦争の酷い記憶と悪夢から逃れらないまま長い人生を送るTeddyは、妻、娘、孫二人との関わりをとおして自分の人生を振り返る。

時間があちこちに飛んだり、ある場面が後に別の視点によって回想されたりすることに、読者は混乱し、苛立つかもしれない。「なぜもっとシンプルにわかりやすくできないのか?」と。だが、それがアトキンソンの綿密に計算したトリックなのだ。彼女の作品には多くのメタフォーやミステリが含まれていて、それに気づくのもアトキンソンを読む楽しみのひとつでもある。

一見ただのサーガ(何代にもわたる家族物語)のような作品だが、じつはもっと大きなテーマを持った作品だ。
私は最初「前作に比べると普通の大衆小説っぽいなあ」とがっかりしていたのだが、後半どんどん熱を帯びてきて引き込まれ、最後のシーンで突き落とされて呆然と立ちすくんだ。

呆然とした後で助けになるのは、著者の「あとがき」である。読了後、ここは飛ばさずしっかり読んでほしい。

それから私はもう一度本書の冒頭に戻ってRalph Waldo Emerson(ラルフ・ウォルド・エマソン)の引用を読んでみた。

A man is a god in ruins. When men are innocent, life shall be longer, and shall pass into the immortal, as gently as we awake from dreams.

エマソンは「有限な存在のうちに神的なものの内在を認める」という「超越/超絶主義(transcendentalism)」の提唱者なのだが、アトキンソンはそれに加えて「フィクション」というツールを使って個々の人間や人生を超えたものを表現しようとしているようだ。

アトキンソンという作家は、ちょっと見にはさらりと読める小説を書くが、本性は奥底に隠している。それを見つけるためには、たくさん散りばめられた鍵やメタフォーを見つけて自分で探しださなくてはならないのだ。

私は寝る前に本書を読了したものだから、そういうことを考えていたらまったく安眠できなかった。

アトキンソンが求めるレベルの読者にはなれないにしても、Teddyの戦時中の体験と戦後の葛藤は直接胸に響く。

そういう意味で、Life After Lifeをまず読んでから挑戦していただきたい作品である。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

フィクションとしての壮大な仕掛けに息を呑む、Life After Lifeのコンパニオン小説 A God in Ruins」への3件のフィードバック

  1. ピンバック: 2015 これを読まずして年は越せないで賞候補作 | 洋書ファンクラブ

  2. 渡辺さんの書評を先に読んで「何か仕掛けがあるぞ」と身構えてしまっていたせいで、本作を読んでいる途中で結末を半ば予期してしまいました。それにしても難しいです。私はたぶんこの小説の「本性」の全ては理解できていないのだろうと思います。でも、そういう理屈は抜きにしても、この物語はおもしろくて没頭しました。Teddyの娘のViolaにはイライラさせられっぱなしだったし(笑)。爆撃機が墜落するのと同時に虚構の世界が崩れ落ちていく場面では、鮮烈な映像が頭の中に浮かんで、まるで映画を見ているみたいでした・・・と、ここにさらにネタバレのようなことを書くのはまずいでしょうか。

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    • Sparkyさん

      引っ越しのバタバタで、コメント見逃していました。
      ネタバレまったくなしに感想を書くのは不可能なので、仕方ないですよね〜。

      彼女の小説の「本性」って、作者以外には見えないのかもしれないです。
      大学と大学院で文学を選考した学者でもある超読書家の友人は、ふだんは私と意見が一致するのですが、Life After Life嫌いでしたしw

      それと登場人物の言動が私とあまりにも違うのでイライラすることはけっこうありますよね。

      いいね

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