昭和時代の懐かしいシネマを観ている気分になる Beautiful Ruins

作者:Jess Walter
マスマーケット: 352ページ
出版社: Harper
ISBN-10: 0062330543
発売日: 2012/6
適正年齢:PG15(特に問題シーンなし)
難易度:上級レベル(英語ネイティブの普通レベルだが、すんなり入り込め、理解しやすい文)
ジャンル:歴史小説/(商業的)文芸小説/ラブストーリー
キーワード:映画、シネマ、イタリア、恋心、郷愁、リチャード・バートン、エリザベス・テイラー、ハリウッド

2012年にベストセラーになった小説。

1962年、イタリアの寂れた海岸沿いの町Porto Vergognaに、ある日前触れもなくアメリカ人女性Dee(ディー)が現れる。父から受け継いだ小さなホテルを、すばらしいリゾートホテルにする壮大な夢を抱く若者Pasquel(パスカル)は、ハリウッド女優がホテルの客になったことに感動する。
これまでにアメリカから来た客は、たったひとりだったからだ。

Alvis(アルヴィス)というそのアメリカ人は、父が存命のころから毎年やってきて2週間滞在する。本を執筆するためだというが、何年もかけて、ようやく1章を書いただけだった。

トラブル続きで難航しているハリウッド映画『クレオパトラ』の脇役をつとめていたディーが、このホテルに来たのは、マーク・アントニー役のリチャード・バートンとここで落ち合うことになっていたからだ。だが、彼はいくら待っても現れない。バートンが本当に愛しているのは相手役のエリザベス・テイラーで、自分は彼にとって都合がよい相手にすぎないというのは、ディーにもわかっていたが……。

ひとりぼっちで死を待つ若い女優と、実現不可能な夢を持つイタリア人の若者に間には、しだいに恋未満、友情以上の絆ができる。

もうひとつのストーリーは、現代のアメリカで進行する。
有名なハリウッドのプロデューサー、マイケル・ディーンのアシスタントになった若い女性クレアは、素晴らしい映画を作る夢を抱いていたが、売れるが下劣な番組ばかり扱うマイケルと自分の仕事に失望し、辞めることを考えていた。

だが、マイケルのところにパスカルという初老のイタリア人男性が現れて、クレアは辞めるのを延期する。マイケルが過去にイタリアで犯した罪を償うのを援助しようと思ったのだ。マイケル、パスカル、クレアは、ちょうどそこに居合わせた脚本家志望者と一緒に、過去を探す旅に出る……。
(これ以上書くとネタバレになるのでやめる)

中学生時代、(私は映画をなかなか観られないど田舎に住んでいたのだが)シネマに憧れる女友だち2人と映画新聞(自分たちだけしか読まない)を作っていたことがある。
『クレオパトラ』や『太陽がいっぱい』に憧れる少女時代を送った私にとっては、とくにイタリアのシーンは懐かしさでいっぱいになった。頭の中に浮かんでくるのが、古いフィルムのように色あせているところが自分でもおかしかったが。

文章は美しいが、いわゆる気取った「文芸小説」ではない。
現実離れしたロマンチストのイタリア人青年、ゆがんだ考え方しかできない彼の叔母、身勝手だけれど憎めない男リチャード・バートン、などすべての登場人物がカラフルに描かれていて、それを読むだけでも楽しい。

笑えるところも多く、心を温め、涙も落とさせてくれる。
そういうドラマを求める人には、お薦めの小説である。

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