アメリカ建国時代の劇的な政治家 Alexander Hamilton

作者:Ron Chernow
ペーパーバック: 832ページ
出版社: Penguin Books
ISBN-10: 0143034758
発売日: 2004/4
適正年齢:PG12
難易度:上級(文章は日本の受験英語レベルだが、建国時代の登場人物の会話や政治用語などは難しいだろう。本も分厚いので読了しにくい)
ジャンル:歴史ノンフィクション
キーワード:アメリカ建国時代、アレクサンダー・ハミルトン、フェデラリスト、アーロン・バー、決闘、ブロードウェイミュージカルHamilton

12年前の2004年に刊行された、アメリカ建国時代に活躍した政治家Alexander Hamiltonの伝記が、再びベストセラーになっている。

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グラミー賞受賞(SFGATEより)

この再流行のきっかけは、ブロードウェイのミュージカル『Hamilton』だ。
もともとはオフ・ブロードウェイで小さくスタートしたのだが、またたく間に人気になり、ミュージカルアルバム部門でグラミー賞を受賞した今ではチケット入手が難しくなっている。

「建国時代の政治家の人生」と「ミュージカル」という組み合わせも意外だが、アレクサンダー・ハミルトン役のリン=マヌエル・ミランダ(Lin-Manuel Miranda)をはじめ主要なキャストはラテン系やアフリカ系アメリカ人、音楽はジャズやラップというのも型破りだ。こういうミュージカルが生まれたのは、Chernow著の『Alexander Hamilton』に惚れ込み、製作だけでなく、脚本、作詞作曲、主演までこなしたミランダが母国アメリカに強い思いを抱いていたからだろう。

ミランダにそこまでのインスピレーションを抱かせたのだから、アレクサンダー・ハミルトンという政治家も大いに型破りだった。

18世紀なかばにイギリス領西インド諸島で内縁関係の父母の間に生まれたハミルトンは、10代で孤児になり、独学で文筆家としての才能を発揮して、経済的な援助を集め、ニューヨークに留学する機会を得た。キングスカレッジ(現在のコロンビア大学)で経済学や政治学を学ぶかたわら、多くの分野での知識も広げ、またたく間に頭角を現した。

ハミルトンは、頭脳明晰なだけでなく、独立戦争に従軍して軍人としての才能も発揮し、のちに初代大統領になるジョージ・ワシントン総司令官の副官として活躍し、建国後は合衆国憲法の草稿を執筆し、ワシントン大統領のもとで、初代の財務長官になり、「国立銀行」の設立を果たした。
ハミルトン自身は大統領にはなっていないが、建国初期の大統領たちに背後で深く関わっていた人物だ。

「多才」という表現が陳腐に感じるほど多くの分野での卓越した才能があり、しかも20代前半の若さで国の重要な職に就いたハミルトンは、性格も言動も「ふつう」の領域をはるかに超えていたようだ。

口が達者で、女性を魅了し、群衆を説得するのが得意だが、いったん自分が正しいと思い込んだら相手を論破し、意見を押し通すために敵を作りやすかった。後見人のような立場だった初代大統領ワシントンとも諍いを起こし、第二代大統領のジョン・アダムズとその妻アビゲイルからは憎まれ、財務長官時代に国務長官を務めたトーマス・ジェファーソンとは、長年の政敵だった。チャーミングで社交的だったことでも知られ、20代後半に恋愛結婚した妻エリザベスとの間に8人の子どもをもうけながらも、36歳のときに13歳年下のあやしい身元の女性マリア・レイノルズと情事を持ち、マリアの夫から脅迫されて口止め料を払い、それが「汚職」の証拠だと糾弾されたときには、政治家・弁護士としての潔白さを証明するために自ら情事の詳細を公にしたという複雑な人物でもある。そして、47歳(年齢については異論あり)のとき、「決闘」で政敵のアーロン・バーに命を奪われた。

「決闘」に反対するハミルトンは、名誉を守るために決闘を受けたが、バーを撃つつもりは最初からまったくなかった。ハミルトンは「空撃ち」という方法で決闘をシンボリックに解決する方法を想定しており、決闘に臨む前に友人たちにはそれを語り、書面での証拠も多く残している。

バーのほかにも敵が多かったハミルトンだが、この劇的な死により、国民は「英雄」として彼を讃え、副大統領まで務めたバーは「英雄を殺した卑怯者」とみなされて政治生命を失った。

ハミルトンという人物の劇的な人生もさることながら、建国時代の政治家たちが「アメリカをどのような国家にするべきか?」という理念で大衝突したのが非常に興味深い。
建国当時にパワーを持っていた政党は、Federalist(フェデラリスト)だ。
そして、敵対する政党は、Democratic-Republican(通称リパブリカン、だが現在の共和党ではない)

二つの党の違いを簡単にまとめるとこうだ。
フェデラリスト(代表的政治家:アレクサンダー・ハミルトン、ジョン・アダムズ、ジョン・ジェイ、デウィット・クリントン)

ボストンなどニューヨークより北部の知識階級のエリート、裕福な商業階級が中心。
教育を受けていない民衆はモラルが低く無知なので、エリートで構成された強い政府がまとめる必要がある。投票権を得る条件は厳しくするべき。

製造業、商業、銀行、貿易を奨励。

リパブリカン(代表的政治家:トーマス・ジェファソン、ジェイムズ・マディソン、アンドリュー・ジャクソン)

南部の農業主、中小の商業主が中心。高等教育を受けていない者が多い。
ふつうの民衆にも十分自律はできる。投票権はすべての国民に(ただし、黒人と女性はのぞく)。国家の権限は最低限にし、州に強い権限を与える。

シンプルな農業優先政策。
金持ちではなく、小規模な農家、平民を助ける政策。

また、フランス革命についても、全面的に賛同するジェファーソンと、革命後にも覚めぬ熱狂のおかげで国が不安定になることを予期したハミルトンは衝突した。

これだけを見ると、ハミルトン時代のフェデラリストは現在の共和党で、リパブリカンは現在の民主党だという印象があるかもしれない。だが、北部のフェデラリストが奴隷制度に早くから反対していたのに対し、リパブリカンの政治家のほとんどが奴隷を多く抱える農業主だったのだ。

この本を読んでいると、大統領を決めるときの政治的なかけひきや根回しが現代とよく似ていることにも驚く。例えば、リパブリカン党のジェファーソン大統領が誕生しそうになったときの、フェデラリストのコーカス(党員集会)で、「ジェファーソンが大統領になるくらいなら、内戦のほうがいい」という意見だ。ドナルド・トランプが予備選に勝つ見込みが強くなった共和党では、「トランプを指名候補にするくらいなら、第三党の候補を出してそちらを推す」という意見すら出てきている。

政治的理念の違いが個人的な深い怨恨に発展していくところも、いまのアメリカの政治や大統領選に驚くほど似ている。つまり、人間の性(さが)は、そう変わらないということなのだろう。

私は何年か前にJohn Adamsの伝記を読み、テレビシリーズも観たので、アダムズの政敵としてのハミルトンしか知らなかった。
今回、ハミルトンの視点になってアダムズを見ると、「なるほど」と思うところが出てくる。

HBOのJohn Adamsのこの名場面を思い出し、「政治は面白い」とふたたび感慨深く思った。

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