グリム童話みたいに怖いのにロマンチックなファンタジー Uprooted

作者:Naomi Novik
ペーパーバック: 464ページ
出版社: Del Rey
ISBN-10: 0804179050
発売日: 2015/5
適正年齢:R(成人向け)
難易度:中級+(シンプルな文章だが、ファンタジーに慣れていない人には理解しにくい表現が多いだろう)
ジャンル:ファンタジー/ラブロマンス
キーワード:童話、魔術、魔法使い、魔女、森、妖怪、王国、ロマンス、戦い
賞:2016年ヒューゴー賞最終候補作

「よその人がどんな噂をしていようが、私の故郷の谷に住むドラゴンは、(お伽話のように)連れ去った少女を食べたりはしない。」という最初のセンテンスが、童話やファンタジーが好きな読者に魔法をかける。

主人公Agnieszka(アグニェシュカ)が住んでいる辺境の村では、100年もの間、10年に一度、塔の中に住むドラゴンに17歳の少女を1人与える。それが、恐ろしい森から住民を守ってくれるドラゴンへの謝礼なのだった。でも、ドラゴンといっても本物のドラゴンではなく、魔法使いにすぎない。そして、魔法使いは少女を食べたりはせず、10年たったら十分な褒美を与えて解放してくれる。解放された少女たちは、「ドラゴンは指一つ触れなかった」と口を揃えて言う。だが、村の誰も信じない。結婚相手が見つかりにくいだけではなく、塔に行く前よりずっと洗練された彼女たちは、二度と故郷に戻ろうとはせず、大きな町に去ってしまう。
だから、村に住む親はドラゴンの年に生まれた娘を特別に扱う。17歳でドラゴンに選ばれた日に娘を失うのは確実だからだ。

ドラゴンの年に生まれたアグニェシュカ(ニックネームはニェシュカ)は、綺麗な服でもその日のうちにボロボロにしてしまうほど粗忽で、美人でもない。だから選ばれる可能性はないのだが、親友のKasia(カシア)を失うのを恐れている。村人の間では、家事万能で、性格もよく、しかも美人で勇敢なカシアが選ばれるのは周知の事実で、カシア自身もすでに覚悟していた。

ところが、ドラゴンは、カシアではなく、アグニェシュカを選んだのだ。しかも、不快感丸出しで。

その理由は、ドラゴンがアグニュシカに魔法の能力があることを察したからだ。

しかし、整然とした美、規律、論理が好きで、100年以上の孤独を自ら選んだドラゴンにとって、粗忽で、反抗心が強いアグニュシカは、苛立ちの対象でしかなかった。いくら教えても学問として成立している魔法が使えず、理屈に合わない「民間魔法」を使うことも不満だったが、「森」という恐ろしい敵と力をあわせて戦ううちに、奇妙な友情とそれ以上のものを育てていく……。

この王国を飲み込もうとする「森」は、恐ろしい存在だ。
感染させた木の実やフルーツを食べた者や、狼の魔物に噛まれた者は、人間性をすっかり失い、他人を感染させるバンパイアのような存在になる。また、 Walkerという自由に歩きまわる木に誘拐されたら、大木に埋め込まれ、そこから戻ってきた者は、外見が以前とまったく同じでも、中身は森の回し者に入 れ替わっている。だから、森から感染(corrupt)された者は、被害を広めないためにも、首を切り取り、魔術の火で焼くしかないのだ。

過去100年間、ドラゴンがなんとか森の侵略を止めてきたのだが、20年前に森にさらわれた母の王妃を救おうとする愚かな王子のせいで、王国は滅亡の危機を迎える……。

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舞台は冬の森。ここを散歩しながらオーディオブック。後はKindleで読了。

*** *** ***
大好きな『His Majesty’s Dragon』シリーズの作者によるファンタジーなので、それと似たようなドラゴンものを期待して読んだら、予想したのとずいぶん違う本だった。

まず、「ドラゴン」は出てくるが、ドラゴンではなくて魔術師だ。
そして、表紙から勝手に「児童書」だと思っていたのだが、読み始めるとYAファンタジーのようであり、そうかと思っていたら突然成人向けのロマンス小説のようなシーンが現れてびっくりした。

最初のうちは本当に意地悪で冷淡なドラゴンに反感を覚えるだろうが、100年も人間との接触を断って塔にこもっていたら、不機嫌で無愛想な性格になっても仕方がないだろうという気がする。そんな「仕事はできるが、引きこもり系」ヒーローと、彼が引きこもっている場所から無理やり引っ張り出してくるヒロインの組み合わせが、スタジオ・ジブリのアニメ(『ハウルの動く城』系)にぴったりだと思った。森の攻撃は、まるで映画『エイリアンズ』のようなホラーだが。

終わり方を「予定調和的」と思う読者がいるかもしれないが、力で克服する結末でないところが、この本の特別なところだと私は思った。

それにしても、突然のロマンス小説シーンはいまだに不思議。
ファンタジー小説でも性的なシーンはあるけれど、「ジャンルによって描写が違う」というのがお決まりだから。
あの部分さえなければ、中学生にもおすすめできる面白さだったので、それだけが残念。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

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