クラウド・アトラスに続くミッチェル作品 The Bone Clocks

作者:David Mitchell
ペーパーバック: 656ページ
出版社: Random House Trade Paperbacks
ISBN-10: 0812976827
発売日: 2014/9
適正年齢:PG15(高校生以上)
難易度:超上級
ジャンル:ファンタジー/文芸小説
キーワード:マジックリアリズム

映画で有名になった『クラウド・アトラス』の原作者ディヴィッド・ミッチェルの2014年の作品。
クラウド・アトラス同様に6つの異なる物語で構成されており、これまでのミッチェルの作品に登場した人物たちが再び現れる(詳しくは、Vultureの記事をどうぞ)。

6つの物語をつなぐのは、最初の物語のナレーターでもあるHolly Sykes(ホリー・サイクス)だ。1984年、15歳のホリーは、年上のボーイフレンドと付き合っていることが母にばれて家出をし、そこで不思議な超常現象を体験する。このときの謎と意味が、それから2043年までの約60年に次第に明かされていく、という仕組みだ。

2つめの物語の主人公はサイコパスの傾向があるケンブリッジ大学の学生で、3つめの物語は1つめの物語に登場したエド、4つめは有名な作家で、ホリーは脇役として登場する。5つめの物語でホリーが中心人物として戻り、ここで「Anchorites(魂を吸い取るバンパイアのような悪玉)」と「Horologists(それを阻止しようとする善玉)」の構造が紹介される。そして、ディストピア化した2043年のアイルランドでのホリーの物語がフィナーレだ。

当然読者によってちがうだろうが、私が気に入ったのは2004年に戦場ジャーナリストとしてイラクを取材しているエドの物語だった。ちょうど、戦場ジャーナリストのRichard Engelの回想録を読んでいたときだったので、2人の姿が重なった。家族としての役割を果たしたいという気持ちと、戦場でしか得られないアドレナリンラッシュの狭間で悩むエドの心情は、リアルで胸にこたえた。

もうひとつ楽しんだのが、次のCrispin Hersheyの話だ。かつて大ヒット作を書いた有名作家が、新作をとある文芸評論家に徹底的にけなされ、それを恨みに思って仕返しをする。彼の滑稽さは、有名作家を混ぜあわせて作ったような感じだが、イニシャルが同じなので、Christopher Hitchensがモデルという噂がある。しかし、読んでいるときに私の頭に浮かんだのはMartin Amisだった。Tibor Fischerがデイリー・テレグラフ紙に載せたAmisの小説『Yellow Dog』のレビューは容赦なく、しかも辛辣なユーモアが効いていたために、英国の文壇で知らない人がいないほど有名になったという経緯があるからだ。そして、HithchensはAmisの友人でもある。個人的には、このあたりを想像しながら読むのがとてもスリリングだった。

しかし……。「しかし」が出てしまうのだ。

ディヴィッド・ミッチェルは、文句なく優れた作家だ。
だが、不思議なことに私は相性が良くないらしい。
ファンタジーやSFが好きな私だから、好きで当然だと思うのだが、なぜか入り込めない。ぞっこん惚れ込めない。途中で飽きてしまい、さっさと読み終えたくなる。最後に別れるとき、何の未練もない。

なぜなのか、読了後2週間ほど考えてみた。

私は、ホリーの60年を追うのであれば、彼女を理解したい。アンコライトやホロロジストの戦いなんてどうでもいいから、エドやホリーのコアに触れたいし、彼らの人生の意味を見出したい。アンコライトやホロロジストが出てくるなら、もっと世界観を知りたい。「小説はそうあるべき」と言っているのではなく、私がそういう読者だというだけ。「現在時制」の文体も原因のひとつかもしれない。現在時制には臨場感はあるが、個人的には過去形のほうが好みなので。

私とミッチェルの作品との相性が悪いとしたら、私が作品に求める距離感と、ミッチェルが与えてくれる距離感がズレているだけの話なのだろう。今後これが接近してくれればいいと期待している。

 

 

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

クラウド・アトラスに続くミッチェル作品 The Bone Clocks」への2件のフィードバック

  1. しばらく前に読みました。『クラウド・アトラス』(←本も映画も気に入りました)以外のミッチェル作品は読んでいないので、他の作品に登場した人物が再登場するという部分は楽しめなかったのがちょっと残念です。

    ホリーの弟の失踪の謎とアンコライト対ホロロジストの戦いを背景に、ホリーと他の登場人物たちが複雑に絡み合う物語が私には面白くて、ワクワクしながら読みました。5つ目の物語までは「『クラウド・アトラス』よりも面白いかも。話にどう決着をつけるのかな」と思っていたのですが、最後の物語で期待を裏切られてしまいました。テーマをあれこれ詰め込みすぎたのではないか、というのが私の感想です。

    いいね: 1人

  2. Sparkyさん、

    ミッチェルって、面白い箇所は沢山あるのに、感情的に「好き!」になれないのは、たぶん私との相性なんでしょうね。それと、「詰め込みすぎ」は私も同感です。あの終わり方は残念すぎでした。

    ところで、娘はこの本が出る前にBEAで彼のスピーチに行ったのですが(私は次のイベントのための席取りで並んでましたw)、すごく話が面白くて、楽しい人みたいですね。逃したのが悔しいです。

    渡辺

    いいね

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