読んだ後じわじわと愛着を感じる、風変わりな文芸小説 The Portable Veblen

作者:Elizabeth McKenzie
ハードカバー: 448ページ
出版社: Penguin Press
ISBN-10: 1594206856
発売日: 2016/1/19
適正年齢:PG15
難易度:上級レベル
ジャンル:文芸小説

19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍したノルウェイ系アメリカ人経済学者Thorstein Veblenにちなんで名前をつけられたVeblenは、風変わりな30歳の独身女性だ。

大学を中退し、腰掛けの事務の仕事を繰り返し、タダ働きのノルウェイ語翻訳のプロジェクトに情熱を注ぎこみ、あとは、読書とリスに関するトリビアが人生の大部分を占めている。
母は究極のナルシストで、父は精神病院に入院しており、人間関係を持っているのはユング心理学者の親友だけだ。

自分で作った服を着て、髪も自分で切るようなVeblenなのに、結婚することになった相手はくそ真面目タイプの医師のPaulだ。

障がいがある弟にすべての愛情をそそぐ両親に対して複雑な愛憎を抱いて育ったPaulは、ヒッピーの両親とはまったく異なる経済的成功を目指している。そのために、製薬会社のプロジェクトを引き受けるが、それは医師としての倫理に反するものだった。

このような筋書きだけを紹介すると、普通の「大衆小説」のように感じる。

しかし、McKenzieの文章が、これを微妙に喜劇的な文芸小説にしているのだ。

シーンの解説、登場人物の考え方など、すべてが少し「タガが外れている」感じなのだ。あるいは、「天然ボケ」的といったほうが想像しやすいかもしれない。

Veblenに導きを与えるのは神ではなくてリスだし、それも大真面目である。

私は通常こういった「天然ボケ」的な文章が好きではない。非常に意欲的な試みだとは思ったが、うまくいっているとは思わなかった。

だが、4ヶ月たった今でもVeblenやPaulのことを覚えているし、残っているのは暖かい印象だけだ。つまり、最初感じたよりも、ずっと味わい深い本だったのだ。

VeblenもPaulも、理想的とはいいがたい親のせいで、幸せに生きる方法がわからない被害者だ。人生の見方が全く異なるふたりが結婚を決めたときには、Veblenの親友だけでなく、読者も「やめたほうがいいよ」と言いたくなる。けれども、この被害者2人が、(やはりどこかネジがゆるんでいる)ドタバタの危機を乗り越えるところに、暖かい気持ちを抱かずにはいられない。

ちょっと風変わりで、微妙に可笑しい文芸小説を探している方におすすめの1冊。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中