退役軍人が帰国してから壊れる理由とその解決策とは? Tribe

著者:Sebastian Junger
ハードカバー: 128ページ
出版社: Fourth Estate Ltd
ISBN-10: 0008168172
発売日: 2016/6/16
適正年齢:PG15
難易度:中〜上級(テストに出てくるタイプの時事エッセイなので、日本で英語教育を受けた人にはかえって読みやすい)
ジャンル:エッセイ
キーワード、トピック:時事問題、戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争、退役軍人、PTSD、自殺

2001年の同時テロ以来、アメリカは15年もの間「戦時中」の状況にある。
アメリカ本土での戦闘がなく、徴兵制度もないために、一般のアメリカ人はふだんそれを忘れがちだ。

軍人たちは、戦地で残酷な死を目撃し、友を失い、ときには人を殺さざるを得ない状況に追い込まれる。その恐ろしい状況を生き延び、幸運に任期を終えた軍人は、なぜか、平和な母国に戻ってから精神的に壊れる。多くの退役軍人は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の診断を受け、障がい者扶助や治療を受けるのだが、それでもうつによる自殺者が後を絶たない。

本書『Tribe』の著者ユンガーは、アフガニスタンで北部同盟と行動をともにしたり、アフガニスタン戦争で陸軍部隊と同行してドキュメンタリー映画を作ったこともあり、退役軍人と最も身近に接してきたジャーナリストだ。

戦地で恐ろしい体験をした退役軍人が、なぜか平和な母国に再び戻ることができない現象について、ユンガーはこう言う。

生死をかけて闘わねばならぬ戦地では部隊は仲間として強く団結する。「兵士は自分の部隊のなかで互いの人種、宗教、政党などの違いをまったく気にかけない」のだ。ところが、戻ってくると、アメリカは収入格差、教育格差、人種、宗教で分断されている。そして、平和な国で暮らしているアメリカ人は、富裕層や政府、移民、そして大統領に対してまで激しい憎しみを公言する。

そんなアメリカに戻った退役軍人は、「国のために喜んで命を捧げる覚悟があったのに、国のためにどう生きれば良いのかわからなくなってしまう」のである。それが「絶望感」に繋がっているとユンガーは言う。

退役軍人だけでなく、現代人が必要とするのは、仲間意識で繋がる「コミュニティ」だとユンガーは考える。自分よりも弱い者、恵まれていない者を助けることができる誇り、勇敢さ、忠誠心、そういったものが人の心を支える。平和な国に戻った軍人が恐ろしい戦地を恋しがるのは、その仲間意識であり、「部族(tribe)」の感覚なのだ。

ここまでのユンガーの説は私も同感だ。

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セバスチャン・ユンガーと(BEAにて)

だが、「部族感覚」を肯定するための次のような部分には首を傾げざるを得なかった。
「もし戦争が、すべての観点で純粋に完璧に悪であり、そこから生じるものがすべて有害であるとしたら、これほど頻繁には起こらないはずだ。破壊と人命の喪失だけでなく、戦争は古代人に勇気、忠誠心、無私無欲といった美徳のインスピレーションを与えた。体験した者にとってはとても陶酔する感覚だ。」

そして、アメリカ先住民族の部族感覚をノスタルジックに語る部分にも辟易した。本人は美化してはならないと言い聞かせているようだが、女性読者としては美化意外のなにものでもない。
男が狩りや他の部族との闘いで連帯感と自尊心をかきたて、女や子どもが授乳と添い寝で連帯感と幸福感を得るという感覚も、男性特有の懐古趣味に感じてしまった。

私はこれまでのユンガーの作品のファンだし、BEAでも真っ先に彼に会ってサインしてもらったほどだ。
この本には良い部分も沢山あるし、現在のアメリカについても的を射た分析がある。
しかし、「部族」は、すべてのアメリカ人にとっての解決策ではない。少なくとも、私にとっては。

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