ガールパワーの方向性が間違っているんじゃないかと思う啓蒙回想記 Love Warrior

著者:Glennon Doyle Melton
ハードカバー: 263ページ
出版社: Flatiron Books
ISBN-10: 1250128544
発売日: 2016/9/6
適正対象:R(大人の女性向け)
難易度:中級レベル(シンプルな文章)
ジャンル:回想記、自己啓発
キーワード:摂食障害、アルコール依存症、不倫、夫婦関係、フェミニズム、離婚
オプラ・ウィンフリーが推薦した本


自分の辛い体験を赤裸々に綴るのには勇気が必要だ。
大切にしている家族の姿を他人に晒すことにもなり、リスクは限りない。
『どうせなら、楽しく生きよう』という本を書いた私なので、そのリスクを取って回想記を書いた著者には共感を覚える。脆弱な自分を晒すことで、かえって強い人間関係を構築できることはある。それを語る、ブレネー・ブラウンの本は心底すばらしいと思っている。

テレビでも活躍しているらしいGlennon Doyle Meltonのことは、(テレビをあまり観ないので)これまで知らなかった。アメリカではブログでも女性フォロワーが多く、有名のようだ。そして、今回のLove Warriorはオプラ・ウィンフリーが選んだお墨付きでもある。5月末にARCを受け取っていたので、期待して読んだ。

Meltonは、貧しい家庭出身で差別されてきたマイノリティでもなければ、児童虐待された心の傷を抱える女性でもない。愛情たっぷりの両親に溺愛されて育った、スリムで美貌の白人女性だ。子どもの頃から「可愛い」と言われ、「美しい」女の子であり続けたくて、摂食障害になり、アルコール依存症になった過去がある。高校2年生(日本では1年生)のときに高校4年生のボーイフレンドと性的関係を持つようになったが、それは彼が好きだったからというよりも、「ボーイフレンドの求めに応じるのがつきあい」と思っていたからだ。

その彼氏が、卒業記念のパーティで同級生の女子からレイプで訴えられたときには、Meltonは(BFが加害者であることを心底では知りつつ)被害者を非難した。(だが、Meltonの心の傷は、自分の過ちに対するものではない。あくまで被害者はMelton自身だ)

Meltonは、迷いながらも結婚し、ようやくアルコール依存症に決別し、神を信じて立ち直っていく。だが、ブログで「聖人のよう」と褒めていた夫が、ある日セラピーのセッションで「結婚した直後から、行きずりの相手とワンナイトスタンドのセックスをしてきた」と告白したのである。

まるで、chick-litかロマンス小説のような筋書きだ。問題は、好きになる心の準備をして読み始めたのに、まったく好きになれなかったことだ。

読んでいるときに感じたのは次のようなことだ。

●Meltonがあまりにも外見や自分の感情に重点を置いていること。
●男性がパートナーの女性の求める理想像になるのは、男女同権でもないし、フェミニズムでもない。なのに、Meltonはそれを求め、得られないことに失望し続けてきたように感じる。
●夫婦を含め、人間関係は一方通行ではない。愛は、受け取るだけのものではない。相手が問題を抱えて苦しんでいるときには、手を差し伸べるべきだし、そうしたいと感じるものではないか?
●「ありのままの自分を愛する」というのは、盲目的な自己肯定でもなければ、自己陶酔でもない。自分のミスは認めるべきだ。

アメリカの読者のなかにも、私のように感じた人はいるようだ。

だが、あまりにも多くの女性が高く評価しているのに驚く。Meltonの本にフェミニズムのメッセージが含まれ、ガールパワーがあると信じている女性が多いのだ。

でも、私や私が知る女性の葛藤は、Meltonのものとはほど遠い。男性と同等に仕事をしたいと悩んでいる若い女性の悩みから、あまりにもかけ離れている。Meltonが滔々と語ることに、私はほとんど興味を抱けない。

私が考えているフェミニズムはこういうものではないし、こういうものだと男性に思ってほしくはない。また、「女としての人生の悩みって、結局こういうものなの?」という感じなので、母として娘に薦めたい本ではない。

あまりネガティブなレビューは書きたくないが、話題作なので正直な感想を書いた。

「アメリカの中流家庭で育った白人女性の典型的な悩み」を知るための本としては、簡単に読めるのでお薦めかもしれない。

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