著者:Gayle Forman
ハードカバー: 343ページ
出版社: Algonquin Books
ISBN-10: 1616206179
発売日: 2016/9/6
適正年齢:R
難易度:中級+(とてもシンプルな文体)
ジャンル:現代小説/女性小説(チックリットほど軽くはない)
キーワード:働く母親、家出、ミッドライフクライシス
44歳のMaribethの人生は、外から見ると羨ましくなるほどパーフェクトだ。
セレブのライフスタイル雑誌の編集長で、優しい夫と結婚していて、可愛い子どもが2人いる。
だが、その幸せを味わう暇はない。職場でも家庭でも息をつく暇もなく追われ、自分の至らなさを自覚しながらクタクタになって生きている。
そんなある日、Maribethは心筋梗塞で死にかける。
緊急バイパス手術で入院して初めて休むことができたわけだが、アメリカの保険では入院期間は短く、1週間で退院だ。退院してからのMaribethのストレスは、心筋梗塞の発作を起こす前よりも大きくなったのだ。
幼いときに養子として引き取られたMaribethの養母は、家事能力ゼロだ。その養母が「孫の世話」としてやってきたので、援助してもらえるどころか、かえって世話をしなければならない。夫や子どもたちも、Maribethがすぐに回復して以前のように自分の役割をこなさないのをじれったく感じているのがわかる。いっぽう、職場では、自分が手助けした元同僚が、自分の仕事を奪おうとしている。
追い詰められたMaribethは、家族を置き去りにして家出をしてしまう……。
Maribethの生活は、たとえ職種が違っても、働く母親にとって他人事とは思えないはずだ。
仕事では男性かそれ以上の完璧さを求められ、家に戻ったら、母や妻としての役割が待っている。
働く男性と異なるのは、職場を離れても、ゆっくり休むことができないところだ。以前、中堅管理職のアメリカ人女性(当時、学童期の子どもが2人いた)が、「1日で自分のために費やすことができる時間は、歯磨きするときくらい」と苦笑いしていたのを思い出す。また、子どもが熱を出すと会社を早退するのは母としての彼女の役割で、そのたびに同僚の男性たちは「女はこれだから。。。」と文句を言っていた。自分の子どもが熱を出したときには、妻が早退しなければならないのに。
興味深いのは、この小説を書いたのが、YA(ヤングアダルト)小説のベストセラー作家のGayle Formanだということだ。大人向けの小説を書くのはこれが初めてで、5月末のBEAのパネルディスカッションでは、「読者の期待を裏切ることになるかもしれないけれど、書きたかったことだから」と語っていた。
彼女も過去に、働く母親の辛さを感じた一人だったのだろう。
逃げてからのMaribethの行動に同感できない読者はいるかもしれない。特に男性は。
けれども、Maribethを男性にしたら、こういった行動はよくあることだし、世間はふつうに認めている。
その視点も持って読むと、納得できるかもしれない。
個人的には、逃げた後のMaribethには共感できないが、「病気にならないと休めない辛さ」の部分で非常に共感を覚えた。
そして、病気でも家族の面倒をみなければならない辛さも。
そういう意味では、男性にも読んでもらいたい小説だ(奥さんに逃げられないためにもね)。