保守派の若き女性政治専門家が共和党に提案する「ミレニアル世代」対策 The Selfie Vote

著者:Kristen Soltis Anderson
ハードカバー: 272ページ
出版社: Broadside Books
ISBN-10: 0062343106
発売日: 2015/7/7
適正年齢:PG15(政治が理解できる年齢であれば何歳でも)
難易度:中級+〜上級(わかりやすいシンプルな文章。単語は、政治に詳しくない人は調べる必要あり)
ジャンル:ノンフィクション(政治、アメリカ)
キーワード:アメリカ、選挙、大統領選、共和党、ミレニアル世代、セルフィー(自撮り)世代、政治、投票行動

2000年以降に成人あるいは社会人になる若い世代のことを、アメリカでは「ミレニアル世代」と呼ぶ。
インターネット前の世界を知らない世代でもあり、コンピュータやスマートフォンを直感的にすいすいと使いこなす「digital native(デジタル・ネイティブ」とも呼ばれる。

彼らは、政治的にも1世代前の「ジェネレーションX」あるいは「ベビーブーマー」たちとはおおいに異なる。

2016年大統領選挙の出口調査(CNN)によると、ヒラリーを最も強く支持したのがこの世代と重なる18−29歳だった。(ヒラリー55% vs トランプ36%
次の30-44歳の年齢層でもヒラリー支持が多く(51% vs 41%)、高齢層では逆転してトランプ支持が増える。
境界になったのが、45歳だった。

一般的に、人々は年を取るにつれ保守的になると考えられている。また、高齢者のほうがきちんと投票する。
ゆえに、共和党のエスタブリッシュメントは、これまで若者票にはあまり注意を払ってこなかった。ほうっておいても、真面目に投票する頃になれば、共和党に票を入れてくれるようになるだろう、という考え方だ。

だが、本書『The Selfie Vote』の著者Andersonは、それは通用しなくなると考えている。

1984年生まれのAndersonは、ミレニアル世代に属する政治分野の世論調査専門家だ。
ただし、高学歴のミレニアル世代にはめずらしく「保守」である。学生時代から共和党の政治家のもとでインターンの経験を積み、卒業後すぐに名前が知られるようになった。
金髪碧眼でルックスも良いAndersonは、テレビでもコメンテーターとしてもてはやされている。アメリカの政治番組をよく観る人なら気付いているだろうが、Fox Newsなど保守のテレビ局で採用されて有名になる女性は、見分けがつかないほどよく似たこのタイプだ。

ただし、Andersonが優れているのはルックスだけではない。
彼女の本を読めばわかるように、共和党が直面している危機をきちんととらえ、警鐘を鳴らしている。

Andersonは、「人は年を取れば自然に保守になる」から共和党は安泰だとは考えていない。ベトナム戦争時代の若者が60歳や70歳になっても反戦であることや、ウォーターゲート事件でニクソン大統領が辞任したのを覚えている世代がいまだにアンチ共和党であったりすることが調査でわかっている。Andersonは、政治学者のKeith R. BillingsleyとClyde Tuckerの学術論文から次のような文章を引用している。

個人が政治的な姿勢を形成するのに最も重要な時期は成人初期である。

その時期に起こった歴史的な出来事が、思春期や成人になったばかりの政治的な体験を決定するうえで大きな役割を果たす。

別の学者からのAndersonの引用では、「18歳のときに起こった出来事は、40歳で体験することの3倍もパワフルなのだ」ということだ。

だからこそ、Andersonは、共和党がミレニアル世代を無視するのは間違っていると考える。彼らを理解して、取り込む努力をしなければならないと。

だが、ソーシャルメディアを駆使し、ビデオゲームを楽しみ、UberやWholeFoods(有機食品を中心にした健康食の高級スーパーマーケット)を利用するミレニアル世代に表層的なPRやマーケティングをするだけではだめだとAndersonは説く。

この世代にとって、同性愛結婚はもう「あたりまえのこと」であり、いつまでも「同性結婚反対!」を唱えていては煙たがられるだけだ。共和党は「オールドファッション」で「偏狭」とみなされてしまう。そんなところで「保守」を主張するのではなく、ミレニアル世代にとって重要な問題に保守としてどう応えるのか考えなければならない。

Andersonは、pollster(世論調査専門家)らしく、ブランドとしての共和党の売り方についても提案しているが、そういった小手先のものだけではダメだとも自覚している。ミレニアル世代は、政治的にはさほど「理念」といったものはない。自分たちが苦しんでいる大学の学費返済や、就職問題、そういった経済的な問題への解決策を提示することで若者を惹きつける必要があると書いている。

この本が出版されたのは、大統領選挙の予備選が始まったころだ。つまり、その前に書かれた本である。

大学の学費を政策の中心に持ってきたサンダース候補がミレニアル世代を魅了したことを思うと、Andersonは非常に正しかったことになる。

しかし、Andersonがどう努力しても、環境、教育、人権、人種差別、妊娠出産での女性の選ぶ権利など、すべての点で暗い過去に戻ろうとしている現在の共和党をそう簡単に変えることはできないだろう。

そもそも、共和党のアイデンティティは何なのか?

ミレニアル世代を誘惑するより先に考えるのは、そこだと思う。

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