原野で遭難したハンターと、救助隊員。脆弱で強いアメリカ女ふたりのストーリー。 Breaking Wild

著者:Diane Les Becquets
ハードカバー: 320ページ
出版社: Berkley
ISBN-10: 042528378X
発売日: 2016/2/9
適正年齢:PG15+(性的なテーマ、描写あり)
難易度:上級(英語ネイティブの普通レベル)
ジャンル:現代小説/サスペンス
キーワード:コロラド、狩猟、bow hunting(弓矢を使う猟)、Elk(北アメリカでは、ワピチを指す)、遭難、救助、救助犬、人生の選択、女性の生き方、性依存症、ワイルドウエスト

男女差や文化による違いは、下手をするとただのステレオタイプになってしまう。じっさいには、違いよりも「人」としての共通点のほうが多いのだから。
とはいえ、それぞれの国、それぞれの文化に、「ここでしか出会えないだろう」という典型的な人がいる。
この小説『Breaking Wild』の主要人物2人は、アメリカでしか出会えないタイプの女性たちだ。しかも、西海岸や東海岸の都市部では出会えない。

ひとりは未開の野生地が多いコロラド西部で弓矢を使う狩猟を趣味にしているAmy Rayeで、もうひとりは、Elk狩りの最中に姿を消したAmy Rayeの救助に尽くすPruだ。性格も生き方も異なるが、どちらもクーガーが徘徊する野生の森で生き残るすべを知っている強い女だ。そして、強いが、脆弱なところもある。

強さと脆弱さのギャップが大きいのはAmy Rayeだ。若すぎるときの性体験をきっかけに性依存症になったAmy Rayeは、そのために愛する夫や家庭を失う危機に直面している。彼女が消えた日の状況から救急部隊の男性メンバーは自殺のシナリオも考える。しかし、若い頃に婚約者と死に別れ、愛を見つけられないままにシングルマザーとして生きてきたPruは、そうではないと信じたい。

サバイバルのスキルを駆使するAmy Rayeと、生還がすでに不可能だと理解しつつも諦められないPruの努力が混じり合う、スリルあるページターナーになっている。

個人的に興味深かったのが、Elk(ヨーロッパでは「ヘラジカ」だが、北アメリカでは「アメリカアカシカ(ワピチ)」のことを指す)の狩猟のシーンだ。鹿用のライフルではなく、弓矢を使う理由。人間の匂いを消すための努力(鹿の尿を自分にふりかけることも含む!)。マウンテンライオン(クーガー)やクマに襲われるリスク。弓で仕留めたとわかっても、すぐに追ってはならない理由……。すべてがリアリスティックだ。

それもそのはず。作者は、小説の舞台になっているコロラド西部で長年弓矢での鹿狩りをしていたらしい。
離婚後に3人の息子をつれてニューハンプシャーに引っ越したことなど、二人の女性主人公のベースになっている苦労をしてきたようだ。

遭難したAmy Rayeは生き残るために多くの選択をするが、それは、人生での選択も暗示している。
彼女のこれまでの生き方に共感はできないだろうが、決して諦めないサバイバルの力には尊敬の念を抱かずにはいられない。

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