地球の滅亡で争う科学信仰と自然信仰のロメオとジュリエット 『All the Birds in the Sky』

著者:Charlie Jane Anders
ペーパーバック: 313ページ
出版社: Tor Books
ISBN-10: 0765379953
発売日: 2016/1/26
適正年齢:PG15(この小説が扱っている多くのアジェンダが理解できる年齢以上)
難易度:上級
ジャンル:SF・ファンタジー/現代小説
キーワード:地球温暖化、AI,魔術、科学信仰、自然信仰、いじめ、友情、ラブストーリー
文芸賞:2017年ヒューゴー賞、ネビュラ賞最終候補(結果の発表はまだ)

PatriciaとLaurenceはボストン近郊の中学校で出会った。動物と会話が交わせるPatriciaと物理学の天才児のLaurenceは、みなと異なる雰囲気があるために、同級生から執拗ないじめにあう。孤独なPatriciaとLaurenceは、その共通点だけで友情を築く。だが、未来を予知する殺し屋とわが子を理解しない親たちが介入し、ふたりは脆弱な友情を切り離し、サバイバルのために別々の道を歩むことになる。

10年後、ふたりは偶然にサンフランシスコで再会した。
魔術師の学校で訓練を受けたPatriciaは癒やしのパワーを持つ魔女になり、LaurenceはITスタートアップの寵児として有名になっていた。

Patriciaの交友関係は自然信仰の魔術師ら、Laurenceも科学とビジネスを信仰する者たちの狭い世界だ。どちらも、地球温暖化の救世主は自分たちだと信じている。だが、双方が「最も重要だ」と思っていることは異なる。魔術師らは、人類よりも自然を重んじている。そして、ITビジネスの信仰者たちは「人類が存続するために、10%の人類をほかの惑星に移住するべき。そのために地球が破壊してもヒューマニティの存続のためには仕方がない」という考え方だ。

気候変動で食物の価格が暴騰していても、人々はまだふつうの生活を続けており、自然信仰者と科学信仰者らの違いが表層化することはなかった。ゆえに、PatriciaとLaurenceの交友関係が混じり合うこともでき、ふたりは少しずつ昔の友情を取り戻す。

だが、地球温暖化による大きな自然災害がアメリカの首都とニューヨークを壊滅状態にし、それをきっかけに全世界で紛争が勃発するようになった。この危機に、自然信仰の魔術師らと科学信仰のITビジネス集団は、地球と人類の存続について異なる決断を下し、それを実行に移そうとする。対立するふたつの集団は血みどろの闘いを始め、PatriciaとLaurenceは辛い選択を迫られる…..。

「自分はみんなとどこか違う」という違和感と、それを周りから嗅ぎつけられて虐めにあった経験がある人はいるだろう。大人への徹底的な不信感を抱いたことも。私もそのひとりだったから、PatriciaとLaurenceには最初から感情移入した。

現実の世界が苦しくなると、私は読書と空想の世界に逃げた。その世界では、私はパワフルな魔法使いであり、ロケットで異なる惑星に旅する冒険家だった。All the Birds in the Sky が与えてくれるのもそんな物語だけれど、彼らが対面するのは、「地球と人類の滅亡の危機」という重荷だ。そして、「仲間と長年の友情のどちらを選ぶのか?」という答えがない選択も。

この小説は、もうひとつの重要な問題定義をしている。それは、世界中に蔓延している「極端な正論」の対立構造だ。この小説では、自然保護主義の魔術師たちは、地球にくらべたら人類なんてちっぽけな価値だと思っている。いっぽうで、ITベンチャー企業に関わる科学者たちは、人類の存続のためなら、地球と大部分の人間を犠牲にするのは仕方がないと思っている。どちらも「正しいのは自分たちだけ」という信念で、地球とほかの動物、人類の運命を決めてしまおうとするのだ。

小説だから単純に描かれているが、私たちが住む世界では、こういった対立が日常茶飯事になっている。エネルギー対策でも、医療問題でも。互いに相手の話に耳を傾けず、歩み寄りをしないので、事態はますます悪くなる。そんな対立でロメオとジュリエットのような状況になるLaurenceとPatriciaが、読者に立ち止まって考える機会を与えている。

とはいえ、完璧な作品ではない。Laurenceの性格には問題があるし、残酷なシーンに辟易する読者もいるだろう。都合が良いプロットやエンディングの甘さに抵抗感を抱くかもしれない。だが、根底に人類や愛への肯定感があることに、私は好感を抱いた。

作者のCharlie Jane Andersは、トランスジェンダーであることを公表している女性作家だ。
SFとファンタジー専門ブログio9を、パートナーのAnnalee Newitzと共同創始し、編集長を務めていた。

本作品は、2017年ヒューゴー賞とネビュラ賞の最終候補になっているが、それは、多くのSFファンが感情移入できるという理由もあるかもしれない。

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