2017年ヒューゴー賞候補 A Closed and Common Orbit (Wayfarers #2)

著者:Becky Chambers
ペーパーバック: 384ページ
出版社: Harper Voyager
ISBN-10: 0062569406
発売日: 2016/10/26
シリーズ:Wayfarers #2
適正年齢:PG15
難易度:上級
ジャンル:SF
キーワード:wayfarers, スペースオペラ、宇宙船、異星人、異種生物、ラブロマンス、家族、友情
賞:ヒューゴー賞候補作

キックスターター(Kickstarter)で資金を集めて出版した小説が、Kitchieの処女小説部門の候補になり、Harper Voyagerが出版権を購入して刊行にこぎつけたという非常にユニークなデビュー作『The Long Way to a Small Angry Planet』の続編。

Wayfarersシリーズの第二部だが、宇宙船のWayfarerとその乗務員たちは登場しない。

(ネタバレになるので詳しくは書けないが)第一巻の最後、Wayfarer号に搭載されていたAIのLovelaceは人類の女性の肉体を模倣した「kit」に身を移して宇宙船を去った。彼女を引き取ったのは、Wayfarer号のIT技術者に部品をよく提供する友人のPepperだ。

LovelaceはSidraという人間の名前を自分で選び、Pepperが経営するIT部品の店を手伝いながら新しい環境に馴染もうとする。異星人と特別な友情も育てていくが、宇宙船の乗務員に尽くすためにデザインされたAIから個体の人間へのアイデンティティの移行は難しく、心理的な危機に陥る。

Sidraからは自由奔放に見えるPepperには、もっと辛い過去があった。

Pepperは、ある惑星に移住した人類が遺伝子操作で生み出した作業用クローンだった。Jane23と呼ばれていた少女は、ほかのJaneらと密閉された場所で長時間の金属解体作業を行い、液体の栄養物を与えられて、ペアのクローンと狭いベッドで寝る。その単調な生活はMotherと呼ばれるAIに厳しく監視され、規則を破った者は処罰され、ときには処分された。好奇心が誰よりも強かったJane23は、あるとき規則を破り、処分を避けるために作業所を逃げ出した。

凶暴な野犬が住む外の世界で死の危機に晒されたJane23を助けたのは、破損して置き去りになっていた宇宙船のAIのOwlだった。

Owlは、Motherとは対極的なAIで、Janeを歓迎し、優しく扱う。母親代わりのようになったOwlだが、宇宙船を修理する間に成長したJaneは、反抗期を迎え、自暴自棄になる……。

Wayfarersの2部は、AIとクローンの2人の女性のアイデンティティが主要なテーマだ。
多様な生物が共存するこの宇宙では、PepperもSidraも、外見からは「人間」のカテゴリーに入る。しかし、中央政府の規則では、AIとクローンには同等の人権がない。AIが肉体を持つのは重大な法律違反だ。
また、ふつうの家族に育てられていない二人にとって、「家族」や「愛情」の定義は、後で学んだものでしかない。けれども、彼女たちは、自分でリスクを取ってそれらを勝ち取っていく。そこが、本書の最大の魅力だ。

「何が人を人にするのか?」という問いかけが、あちこちにちりばめられており、そこに現代の読者が惹かれ、ヒューゴー賞の候補作品になったのだろう。

Chambersは、根本的に人の善意や愛情を信じる作家なのだと思う。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

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