著者:Becky Chambers
ペーパーバック: 384ページ
出版社: Harper Voyager
ISBN-10: 0062569406
発売日: 2016/10/26
シリーズ:Wayfarers #2
適正年齢:PG15
難易度:上級
ジャンル:SF
キーワード:wayfarers, スペースオペラ、宇宙船、異星人、異種生物、ラブロマンス、家族、友情
賞:ヒューゴー賞候補作
キックスターター(Kickstarter)で資金を集めて出版した小説が、Kitchieの処女小説部門の候補になり、Harper Voyagerが出版権を購入して刊行にこぎつけたという非常にユニークなデビュー作『The Long Way to a Small Angry Planet』の続編。
Wayfarersシリーズの第二部だが、宇宙船のWayfarerとその乗務員たちは登場しない。
(ネタバレになるので詳しくは書けないが)第一巻の最後、Wayfarer号に搭載されていたAIのLovelaceは人類の女性の肉体を模倣した「kit」に身を移して宇宙船を去った。彼女を引き取ったのは、Wayfarer号のIT技術者に部品をよく提供する友人のPepperだ。
LovelaceはSidraという人間の名前を自分で選び、Pepperが経営するIT部品の店を手伝いながら新しい環境に馴染もうとする。異星人と特別な友情も育てていくが、宇宙船の乗務員に尽くすためにデザインされたAIから個体の人間へのアイデンティティの移行は難しく、心理的な危機に陥る。
Sidraからは自由奔放に見えるPepperには、もっと辛い過去があった。
Pepperは、ある惑星に移住した人類が遺伝子操作で生み出した作業用クローンだった。Jane23と呼ばれていた少女は、ほかのJaneらと密閉された場所で長時間の金属解体作業を行い、液体の栄養物を与えられて、ペアのクローンと狭いベッドで寝る。その単調な生活はMotherと呼ばれるAIに厳しく監視され、規則を破った者は処罰され、ときには処分された。好奇心が誰よりも強かったJane23は、あるとき規則を破り、処分を避けるために作業所を逃げ出した。
凶暴な野犬が住む外の世界で死の危機に晒されたJane23を助けたのは、破損して置き去りになっていた宇宙船のAIのOwlだった。
Owlは、Motherとは対極的なAIで、Janeを歓迎し、優しく扱う。母親代わりのようになったOwlだが、宇宙船を修理する間に成長したJaneは、反抗期を迎え、自暴自棄になる……。
Wayfarersの2部は、AIとクローンの2人の女性のアイデンティティが主要なテーマだ。
多様な生物が共存するこの宇宙では、PepperもSidraも、外見からは「人間」のカテゴリーに入る。しかし、中央政府の規則では、AIとクローンには同等の人権がない。AIが肉体を持つのは重大な法律違反だ。
また、ふつうの家族に育てられていない二人にとって、「家族」や「愛情」の定義は、後で学んだものでしかない。けれども、彼女たちは、自分でリスクを取ってそれらを勝ち取っていく。そこが、本書の最大の魅力だ。
「何が人を人にするのか?」という問いかけが、あちこちにちりばめられており、そこに現代の読者が惹かれ、ヒューゴー賞の候補作品になったのだろう。
Chambersは、根本的に人の善意や愛情を信じる作家なのだと思う。