読むうちに人への不信感が募ってくるダークな心理スリラー My Husband’s Wife

作者:Jane Corry
ハードカバー: 384ページ
出版社: Pamela Dorman Books
ISBN-10: 0735220956
発売日: 2017/1/31
適正年齢:PG15 (露骨なシーンはないが、性や夫婦の関係を話題にしているので大人向け)
難易度:上級
ジャンル:心理スリラー
キーワード:夫婦、嘘、自閉症スペクトラム、人格障害、犯罪者、弁護士、殺人

登場人物の誰にも好感を抱けない小説というのは、読みづらいものである。
ことに、まったく共感できない行動を取る一人称の語り手にはイライラする。
かといって、それが小説の良し悪しを決めるわけではない。自分とは異なる世界を体験するのが、フィクションの醍醐味なのだから。「イヤミス(嫌な感覚を与えるミステリー)」のGone Girlが人気になったのは、ミステリ(心理スリラー)としての完成度が高かったからだ。

話題作のMy Husband’s Wifeも、そういった心理スリラーに属する。

新婚ほやほやの新人弁護士Lilyは、本来なら幸せいっぱいのはずだが、すでに将来への不安と悩みを抱えていた。
ハンサムな夫のEdが、自分のように内気で太った女に出会ってすぐにプロポーズしたのは不思議だし、夫は美人の元恋人に今でも惹かれているようだ。そして、新婚旅行を終えたとたんに、困難な刑事事件を担当することになる。
それは、同居中の恋人を殺した罪で有罪になった男の再審申請だ。

クライアントのJoeは、Lilyが想像していたような殺人犯ではなかった。
頭脳明晰だが、相手の気持ちを思いやることはなく、無作法だ。だが、そういったところが心理的な障害を持っていた義理の弟によく似ていて、Lilyは心理的に操られていると気付きながらも心惹かれる。

Lilyは再審理に必要な新しい証拠を発見し、Joeの再審はメディアに注目される大きな裁判に発展した。
いっぽう、仕事で多忙になったLilyと、夫のEdの関係は冷えていく。Edは収入のためにサラリーマンをしているが、本当になりたいのは画家だ。本業でも画家としても成功していないEdは、アルコールに逃げている。

そんな不安定な夫婦の人生に、同じビルに住む10歳の少女Carlaが入り込んでくる。
Carlaの母はイタリアから移住したシングルマザーで、Lilyは怪我をして学校から戻ったCarlaと偶然に出会い、毎週日曜にEdといっしょに少女の面倒をみるようになった。Edは、Carlaの絵を描くことで意欲と自信を身につけるが、日曜に仕事をしているはずのCarlaの母が実際には不倫相手と会っていたことがわかり、3人で過ごす日曜は終わりをつげた。

壊れかけていたLilyとEdの関係だが、Lilyの妊娠をきっかけに、二人はやり直すことをきめる。

母と一緒にイタリアに戻ったCarlaは弁護士になることを目指し、学校を終えた後イギリスに戻ってきた。Lilyはやり手の女性弁護士として事務所のパートナーになり、EdはCarlaのポートレートで名前を知られるようになっていた。
Carlaは二人に会いにくるが、その目的は、過去に世話になった二人への感謝を伝えるためではなかった……。

My Husband’s Wifeという首を傾げるようなタイトルから想像できるように、ハッピーな結婚の話ではない。
そのうえ、見知らぬ人への親切はほぼ裏切られる。「親切にするのはやめたほうがいいかも……」と読者に思わせてしまう小説を薦めるのはちょっと気がひける。それと、外国人への悪いイメージを肯定するような設定にも。

小説に登場する外国人(本書では、イタリア移民のCarlaと彼女の母)は差別や虐めの対象になって気の毒なのだが、彼らもまたモラルに欠けた行動を取るから同情の余地がない。

「妻が稼ぎ頭で夫が専業主夫」というパターンをネガティブに描いているのも、実際にはよくあることだと思うが、「やはりね」という印象を与えるのは残念だ。

また、夫のEdは徹底的に自己中だが、Lilyが相手に踏みつけられることを求めるような行動を取るのはさらに理解できない。また、彼女の嫌味にも同情できない。

登場人物の中でもっともカリスマがあるのが殺人犯のJoeで、この心理スリラーには欠かせない人物なのだが、自閉症スペクトラムとして捉えるのは大いに疑問だ。

こういった点への不満はあるのだが、それでもいったん読み始めたら最後までやめられないページーターナーだ。400ページ近い長さを最後まで飽きずに楽しめたのは、心理スリラーとして優れているということなので、「嫌ミス」だがお薦め作品である。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中