2018年の大型心理スリラー The Woman in the Window

著者:A.J.Finn(新人)
ハードカバー: 448ページ
出版社: William Morrow
ISBN-10: 0062678418
発売日: 2018/1/23
適正年齢:PG15
難易度:上級レベル
ジャンル:心理スリラー/ミステリ
キーワード:フィルムノアール、殺人事件、目撃者、アゴラフォビア(広場恐怖症)、パニック障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、心理カウンセリング

アメリカ最大のブックフェアBook Expo Americaでは、その年後半と翌年前半にアメリカで刊行される出版社の「イチオシ」本のPRが繰り広げられる。
今年6月上旬に開催されたBEAで話題になっていた本のひとつが、来年1月発売予定の心理スリラー『The Woman in the Window』だ。

主人公のアナは、優しい夫と幼い娘とマンハッタンの贅沢なタウンハウスで暮らし、児童心理セラピストとして活躍していた女性だ。だが、ある出来事の後、アゴラフォビア(広場恐怖症)でパニックを起こすようになってしまった。タウンハウスから一歩も外に出られないアナは、1日中窓から近所の家族を観察している。

担当の心理セラピストと理学療法士の家庭訪問のほかには外部との接触がほとんどない毎日だったが、向かいにティーン・エイジャーの少年と両親が引っ越してきて、状況が急変した。別々に挨拶に来た少年ネイサンと母親のジェインはフレンドリーで好感を抱いたのだが、どうやら彼らは父親のアリステアを恐れているようなのだ。

ある日、アナはジェインがナイフで刺殺されたのを目撃し、警察に通告した。ところが、死体はなく、ジェインは留守にしているとアリステアは主張する。それを裏付けるように、ジェインが帰宅したが、それは引っ越しの挨拶で訪問した女性ではなかった。

アルコール漬けで抗精神薬を服用しているアナの証言を警察は信じない。そして、アナ自身も自分の判断力を疑うようになる……。

ある程度の年代以上の人なら、タイトルと設定から有名なヒッチコックの映画『裏窓(Rear Window)』を連想するのではないだろうか。ジェイムズ・スチュワートが演じたジェフは、事故で車椅子生活になって退屈し、窓から隣接するアパートの住民たちを観察しているうちに事件を目撃するというものだ。
この心理スリラーでは、『裏窓』を含めた暗いモノクロの犯罪映画(フィルムノアール)が重要な役割を果たしている。
アナが夫のエドと親しくなったきっかけはフィルムノアールの趣味であり、夫と子どもと別れて寂しく暮らすアナは、毎日ワインを飲んで白黒の映画を観続ける。そして、事件が起きたときも、背景にフィルムが流れている。

また、タイトルからは、近年話題になった『The Girl On the Train』も連想する。
その作品では女性主人公が「unreliable narrator(信頼出来ない語り手)」だったが、The Girl On the Trainのレイチェルとアナは、似ているようで異なる。心理スリラー好きの読者にとっては、そういった「味比べ」も楽しい。

The Woman in the Windowに含まれたミステリは、隣家の殺人事件だけではない。アナの背景そのものが読者にとって興味深い謎だ。それぞれの謎は決して意外ではないが、多くの詳細をスムーズに絡み合わせているところが卓越している。処女作とは信じられないほどの腕前だ。

最初のページから読者を引き込むだけでなく、無駄な文章がまったくない。
ページ数は多いのだが、ひとつの章が短いので、退屈する暇がない。400ページを超えているのに、午後1時にスタートして夜寝る前に読み終えてしまったほどのめり込んでしまった。

この作品を担当した編集者も最初は知らなかったらしいのだが、じつは、作者は同じ出版社の編集者なのだという。これほど隙がない心理スリラーが書けるということは、編集者としても相当優秀なのだろう。

この小説は、すでに37カ国で翻訳出版が決まっており、映画化もされることになっているらしい。アメリカでの刊行は1月だが、日本でもそう待たずに邦訳版が読めるのではないかと思っている。

4 Comments

  1. たびたびお邪魔します。
    幻想と現実、過去と現在が交錯する、複雑なストーリー。悲しいお話でもありますが、後半の二重三重の仕掛けと加速感は素晴らしく、ページをめくる手が止まらなくなるくらい引き込まれてしまいました。
    読み終わって、The Girl on the Trainより怖く、完成度も高いように思いました。

  2. wkempffさま

    そうなんです!
    すごく複雑なストーリーで、読後感もずっしり重いですけれど、満足感も大きいミステリですよね。
    わが家でも全員が「素晴らしい」と高い評価でした。全員一致はなかなかないですw
    ミステリながらも文芸のクオリティだと思います。いい本に出会えてありがたいことですよね!

  3. 私は、最初なかなか入り込めなかったのですが、後半は前に張られた伏線がどんどん見事に回収されていって、のめり込みました。たくさん引用されているモノクロ映画についてはほとんど知らないので、「これが全部わかったら、もっと楽しめるんだろうなぁ」と残念に思いました。『The Woman in the Window』というタイトルのフィルム・ノワールもあるんですね。

    本作品の映画版の上映は今年10月末の予定だそうで、観てみたいです。

  4. Sparkyさん、
    コメントありがとうございます。
    映画を意識して作った感じもある本ですよね。
    この作者、最近ちょっとしたスキャンダルがあったのですが、それがちょっと残念です。

コメントを残す