現代アメリカの浅はかな恋愛シーンを風刺するPride and Prejudiceのリメイク Eligible

作者:Curtis Sittenfeld (その他の作品にPrep, American Wifeなど)
ハードカバー: 528ページ
出版社: Random House
ISBN-10: 0007486294
発売日: 2016/4/21
適正年齢:PG15
難易度:上級(文章としては難しくないが、現代アメリカの事情やオースティンの原作を知らないと風刺が理解できないだろう)
ジャンル:現代小説(風刺)/chick lit/恋愛小説
キーワード:Pride and Prejudice、プライドと偏見、Jane Austen, ジェーン・オースティン、デート番組、リアリティ番組、恋愛

今年(2017年)は、ジェーン・オースティンの没後200周年で、それを記念する映画や文学が盛んになっている。
そのひとつが、オースティンの作品の現代版リメイクだ。本書Eligibleは、アメリカの流行作家Curtis Sittenfeldによる現代版Pride and Prejudiceで、主人公の名前は同じだが、舞台はイギリスではなくアメリカになっている。

Eligibleでのエリザベス(リズ)・ベネットは、ニューヨークで女性雑誌のライターとして働いている30代後半のキャリアウーマンで、姉のジェーンもヨガのインストラクターとしてニューヨークに住んでいる。

故郷のオハイオ州シンシナティ市にはまったく未練がなかった2人だが、父が突然倒れたために休みを取って帰省することになった。戻ってみると、下の3人の妹は、いまだに両親と同居して仕事もせずにスネをかじっている。キティとリディアは流行りのエクササイズ「クロスフィット」で身体を鍛え、メアリーはひきこもりのままネットで学位を取り続けている。母親は、娘のなかで少しでも見込みがありそうな美人のジェーンが40歳の誕生日を迎えるまえになんとか結婚させたいと躍起になっている。

そこに現れたのが、チップ・ビングリーだ。チップは、デート番組の「Eligible」(実際にある人気リアリティ番組「The Bachelor」のことだとすぐにわかる)で有名になったイケメンで、現在は医師になっている。ビングリーと一緒にオハイオを訪問したのが友人の脳外科医フィッツウイリアム・ダーシー。ダーシーは、ベネット家の母親や妹たちの下品さを嫌悪してリズをけなし、チップがジェーンに近づくのを止めようとする……。

ジェーン・オースティンの情熱的なファンは数え切れないし、リメイクやテーマを使った作品も星の数ほどある。
情熱的なファンを満足させるような映画はあっても、リメイクになると批判のほうが大きい。たいていの場合、ファンが抱いている原作のイメージを壊すからだ。

本作Eligibleに対する批判もそこに集中している。現代アメリカのエリザベスとダーシーに原作のような魅力がないというのだ。

原作のPride and Prejudiceを何度も読み返した私も、そこには同感する。だが、SittenfeldのEligibleは、現代の風刺小説として非常によくできており、現代版リメイクとして成功していると思う。

オースティンの作品は、表層的なジャンルでは「恋愛小説」だが、良い結婚をすることでしか女性が人生の安定を得ることができなかったジョージ王朝時代の上・中流階級の事情を、優れた文章で巧みに描いているために古典として現代も愛されている。結婚で終わるロマンスだが、よく読めば、当時の社会や人々に対するオースティンのシニカルな視線も感じる。

とはいえ、現代では「古典」だが、当時は「娯楽小説」だったのだ。

Eligibleの評価は、「オースティンのリメイク」と捉えるか、「現代アメリカ人と恋愛事情をシニカルなユーモアで描いた風刺小説」と捉えるかで変わる。

「オースティンのリメイク」と思って読むと、原作のエリザベスとダーシーのイメージが壊れてがっかりするだろうが、「風刺小説」として読むと、リアリティ番組の浅はかさや、30歳になっても親のスネをかじっている子どもの甘えや、トランスジェンダーへの偏見、ニューヨークでのキャリアウーマンの恋愛の難しさなど、現代アメリカを巧みに編み込んだ見事な腕前に感心する。

Pride and Prejudiceを何度も読んだ読者は、ストーリーラインをよく知っている。ゆえに、「次のあの場面を現代アメリカでどう描くのか?」という好奇心があるのだが、Sittenfeldは「原作とまったく同じではなく、しかも軌道は外れない」という巧みな技を披露してくれた。

もちろん原作の魅力には遥かに及ばないが、Sittenfeldの達成には拍手喝采だ。

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