起きてすぐにベッドメイキングをする価値とは? Make Your Bed

著者:General William H. McRaven
ハードカバー: 144ページ
出版社: Grand Central Publishing
ISBN-10: 1455570249
発売日: 2017/4/4
適正年齢:PG(中学生以上)
難易度:中級(日本の高校英語でわかるレベルのシンプルな文章)
ジャンル:人生指南、自己啓発、エッセイ
キーワード:NAVY SEALs、ネイビー・シールズ、サダム・フセイン捕獲、ウサーマ・ビン・ラーディン殺害、

今年の4月ごろから、『Make Your Bed(ベッドメイキングをしろ)』というタイトルの本がベストセラーに入っているのに気付いた。
そっけないほどシンプルな表紙で、アメリカでは珍しい150ページ未満の薄い本だ。
それなのに、何週間もベストセラーを保っている。

著者は、海軍エリート「ネイビー・シールズ」出身で、サダム・フセイン捕獲、ウサーマ・ビン・ラーディン殺害という特殊部隊を指揮したことで知られるウィリアム・マクレイヴン(日本ではビル・マクレーベンという表記もある)海軍大将(退職時のタイトル)だ。

この本ができたきっかけは、マクレイヴンが2014年に母校のテキサス大学オースティン校で行った卒業スピーチ(Commencement Address)だ。このスピーチが口コミで広まって人気になり、それに肉付けしたのがこの本なのだ。

タイトルにある「make your bed(ベッドメイキングをしろ)」は、日本なら「毎朝布団をたため」という感じだ。
『赤毛のアン』を読んだことがある人なら、マリラがアンにベッドメイクについて厳しく躾けたのを覚えているだろう。欧米では、ベッドメイキングをちゃんとしないのは、だらしないとみなされる。

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毎朝この状態に戻すベッドメイキング

アメリカの軍では、朝起きると真っ先に自分のベッドのベッドメイキングをしなければならない。シーツの角をきっちり折りたたみ、シワひとつないほどピンと張る。なぜそれがそんなに重要なのか、マクレイヴンは次のように説明している。

・毎朝ベッドメイキングをすれば、1日の最初のタスクを達成したことになる。
・最初にひとつのタスクを達成したら、次のタスクも、その次のタスクも達成しやすくなる。
・その結果、1日の終わりには多くのタスクを達成していることになる。
・人生で些細に見えることに重要な意義があることがわかる。
・小さなことがちゃんとできない者は大きなこともちゃんとできない。
・たとえひどい1日になっても、家にもどったらきちんとしたベッドが待っている。
・きちんとしたベッドは、翌日が今日よりも良い日である希望を与えてくれる。
・もし世界を変えたいのなら、毎朝ベッドメイキングをするところから始めよ。

むろん、この本に書いてあることはベッドメイキングだけではない。
マクレイヴンがネイビー・シールズや長年のキャリアで得た教訓がシンプルに書かれている。

たとえば、「人生は不公平だ」という愚痴についてだ。現状について運命や他人のせいにするのは簡単だが、それはまちがっている。人生は不公平なものだが、それにどう対処するかによって人物ができあがるという考え方だ。
「自分の不運のせいにするな。誇り高く、将来を見つめ、押し進め!」とマクレイヴンは書く。

これだけでなく、マクレイヴンが本書に書いていることはよくわかる。

私の周囲で「成功者」とみなされいるアメリカ人は、ほぼ彼と同様のタイプだ。
嫌なことは毎日山ほどあるはずだが、愚痴は言わない。他人のせいにしない。
ふつうの人が「やらなくちゃいけないんだけど、面倒だな〜。どうしよう?」と悩むタスクを、無言でどんどんこなしていく。
失敗しても、くよくよ落ち込んで時間を無駄にすることがない。改善策を考えてすでに次のタスクに取りかかっている。
だから、結果的に凡人の何十倍の達成ができるというわけだ。

しかし、それが事実でも、マクレイヴンの本を読んだだけで人生が変えられる人はそういないだろう。
そもそも、マクレイヴンが語る叡智は親が子どもに伝える「しつけ」の範疇であり、誰でも本当は知っていることだ。できる人は、すでにやっている。

マクレイヴンのような人は、たいてい、ベッドメイキングを含めた努力の仕方を若い頃に教わっている。小さな努力と達成が大きな達成に結びつくことを、体験で身につけているのだ。

逆に、「自己啓発書」を読んでもなかなか自分を変えられないのは、小さな成功体験を積み重ねるチャンスがなかった人だ。そういう人にとって、マクレイヴンが壮絶な体験や努力から得た叡智は、「甘えるな!」、「おまえは努力が足りない」と責められているように感じるかもしれない。

とはいえ、そんな人にも、「毎朝ベッドメイキング(あるいは布団をたたむ)をする」ことはお薦めする。慣れれば、本当にたいした努力ではない。時間もそんなにかからないし。
ついでに言えば、どんなに疲れていても夜寝る前には皿洗いを終えたほうがいい。

この2つをするだけで、自己嫌悪が減り、1日を始めるのが楽になることをお約束する。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

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