才能ある作家の残念な野心作 The Ministry of Utmost Happiness

著者:Arundhati Roy (デビュー小説はブッカー賞受賞の The God of Small Things)
ペーパーバック: 464ページ
出版社: Knopf
ISBN-10: 1524711276
発売日: 2017/6/6
適正年齢:PG15(高校生以上)
難易度:最上級レベル(非常に読みにくい)
ジャンル:文芸小説/現代小説
キーワード:インド、ヒンドゥー・ナショナリズム、カシミール独立分離運動、ヒジュラー(hijra)

The God of Small Thingsでブッカー賞を受賞したArundhati Royが20年ぶりに書いた長編小説『Ministry of Utmost Happiness』は、6月の刊行前から大きく期待されていた。

Royは20年間執筆活動を休んでいたわけではない。ヒンドゥー・ナショナリズムに反対し、カシミール独立分離運動に賛同する者として、政治色が強いノンフィクションを書いてきた。

この長篇にもその政治的姿勢が強く反映している。というか、政治的メッセージが入りすぎていて小説としての魅力を台無しにしてしまっているのだ。

この小説の主要人物のひとりは、男性のAftubとして生まれて性転換し、hijra(男性でも女性でもない第三の性、ヒジュラー)になったAnjumだ。リタイアして墓場に住むAnjumのストーリーは詩的で幻想的でもあり、心惹かれる。

500ページ近い長篇をAnjumと過ごすつもりでいたら、突然彼女から引き離されて、現代インドの複雑な政治問題に向き合わされる。

歴史的に有名な事件の暴力的で血なまぐさいエピソードは鮮明で、これはこれで興味深い。だが、混沌から混沌へ休みなく放り出されるうちに読者は混乱してくる。

そのうえ、Royは、政治活動家と長年の関係を持つTiloという女性の複雑なロマンスまで付け加えるのだ。

「いったい、この小説は誰の話なのだ?」と途方にくれてしまう。

長編小説の世界にどっぷりと入り込みたい読者に対して、あまりの仕打ちではないか。

Anjumの愛にしても、カシミール独立分離運動にしても、Tiloの人生にしても、それぞれは十分興味深い。Royの詩的な文章もすばらしい。しかし、全体像を無視して使いたい材料をすべてつめこんだ『Ministry of Utmost Happiness』は、やはり小説としては失敗作だと思う。

「しっかりと読めば、この小説の価値がわかるはず」という反論があるかもしれないが、それを読者に強いるのは、作者の怠慢だと思う。なにせ、読者が楽しめる小説が書ける人だとはわかっているのだから。

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