バイオレントな過去から逃げる父と娘のロードトリップ的文芸サスペンス The Twelve Lives of Samuel Hawley 

作者:Hannah Tinti
ハードカバー: 400ページ
出版社: The Dial Press
ISBN-10: 0812989880
発売日: 2017/3/28
適正年齢:PG15
難易度:上級(ネイティブの普通レベル)
ジャンル:文芸サスペンス
2017年これを読まずして年は越せないで賞候補(春巻さん推薦

シングルファーザーのSamuel Hawleyは、娘のLoo(ルー)と安宿のモーテルから別の土地にある安宿のモーテルに移る旅を長年続けていた。だが、Looが12歳になったとき、Hawley(発音は”ホーリー”に近い)は、娘のために安定した生活を与えようと決める。

ホーリーが選んだのは、死んだ妻Lily(リリー)の故郷である海辺の町マサチューセッツ州オリンパス(漁村のグロースターターかロックポートをモデルにしたと思われる架空の町)だ。そこにはリリーの母がまだ住んでいたが、彼女はホーリーとルーに関わることを拒否する。

ルーにとってそれは些細なことでしかない。父と二人きりの生活しか知らないルーにとって、ホーリーが人生のすべてだった。父がいくつもの銃を部屋中に隠していることや、12歳になったときに銃をプレゼントしてもらい、撃ち方を教えてもらったことにすら特に疑問を抱いたことはなかった。

だが、オリンパスに住みついたことで、ルーは父以外の人間とも関わらざるを得なくなった。

これまで一箇所にとどまったことがないルーは、同年代の子どもとの関わり方を知らない。学校で執拗ないじめにもあうが、それなりに対処し、なぜか親身になってくれる校長の援助でアルバイトも見つける。そして、思春期を迎えたときには恋も経験する。

そのうち、ルーは母の死の真相に疑問を抱くようになる。
父は、母の写真やショッピングリストなどをバスルームの壁にいつも飾っている。まるで神棚のように。どんなに慌ただしく移動するときでも、それだけは必ず持ち運ぶ。だが、父は過去についてほとんど語らないのだ。

ホーリーには12の銃痕がある。それぞれの銃痕には、過去の仕事やリリーに関する秘密、ロードトリップの理由が隠されている。

そのバイオレントな過去が、オリンパスでの二人の生活にじわじわと迫ってくる……。

作者のTintiは、NPRのインタビューでこう言った。

「みんなそうだと思うのですが、子供にとって、親はヒーローであり、見知らぬ他人なんですよね。子供が生まれる前に、私たちとはまったく関係がない人生をすでに生きていたわけです。私たちが自分のアイデンティティを見つけるためには、彼らがどんな人であったのかを理解する必要があります。もちろん、この小説ではもっと極端ですけれど…….」

たしかに、ホーリーの過去は極端だ。猫には9つの命があるといわれるが、ホーリーは猫以上だということになる。

だが、そんなバイオレントな過去も、オリンパスという土地も、そこに住んでいる人も、実際にあり得そうに感じさせてくれるほどTintiの文章はうまい。

オリンパスでのホーリーとルーの生活と、ホーリーの銃痕にまつわる過去の逸話が交互に現れる構成も、「あと一章読んでから寝よう」と思っているうちに寝そびれてしまうような臨場感を与えてくれる。

すでに映画のオプションが売れたそうだが、たしかに映画向きだ。
死んだ妻をいまだに溺愛していて、寄ってくる女には見向きもせず、娘だけを愛するホーリーは、めちゃくちゃハードボイルドだ。クリント・イーストウッドが若かったら、適役だっただろう。

面白かったのだが、アメリカの銃信仰者にウケそうなのは困ったものだ。
でも、そういう社会ではない日本人読者にはお薦めできる。

審査員の春巻まや さんの推薦で、2017年「これを読まずして年は越せないで賞」の候補にした。

2 Comments

  1. ルーの過去の学習や経験がすべて活かされるラストは素晴らしく、文章も美しくて「うまい!」と唸らされました。でも、渡辺さんのおっしゃる「アメリカの銃信仰者にウケそうな」物語が私の心を惹きつけてはくれず、三つ星。どうでもいいのですが、Loo という文字を見ると、ついトイレを思い浮かべてしまいます(笑)。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott にコメントする コメントをキャンセル