作者: Greer Hendricks, Sarah Pekkanen
ハードカバー(日本ではペーパーバック入手可): 352ページ
出版社: St. Martin
ISBN-10: 1509842829
発売日: 2018/1/11
難易度:上級(文章は難しくないが、プロットが凝っているので、英語ネイティブでも混乱している様子)
適正年齢:R(あまり多くないが性的描写あり)
ジャンル:心理スリラー(ドメスティック・スリラー)
キーワード:結婚、離婚、再婚、元妻、ストーカー、秘密
『Wife Between Us』のプロローグで元夫の婚約者を隠れて観察する元妻の心情を読んだら、読者は「夫を取られた怒りとジェラシーで復讐に燃える女」の怖さを描く心理スリラーを予想するだろう。タイトルもそんな印象を与える。
だが、それはこの心理スリラーに多く仕掛けられているトリックのひとつなのだ。
最初のいくつかの章で、読者は2人の女性を紹介される。
マンハッタンの有名プレスクール(保育園)で教師をしている20代後半のネリーは、飛行機で知り合った投資銀行家のリチャードとの結婚を目前にしていた。年上らしい落ち着きと洗練されたテイストがあり、細々としたところまで思いやってくれるリチャードと結婚できるのは夢のようだった。けれども、誰かにつきまとわれているような、つかみどころがない不安も感じていた。
語り手であるヴァネッサは、7年結婚していたリチャードと別れたばかりの妻だ。リチャードは、彼女と結婚している間に関係を始めた愛人と婚約していた。アメリカでは、裕福な夫と離婚するときには弁護士が中に入り、示談で相当な金額を受け取るはずだ。だが、なぜかヴァネッサはスーツケース3つで叔母のアパートメントに転がり込み、高級百貨店でセールスをしている。
ここまで読むと、若い女に乗り換えられられたことを恨むヴァネッサがリチャードとネリーに復讐をしようとしていると思うだろう。だが、それは作者たちがわざと仕組んだ「早とちり」である。
作者は、グリーア・ヘンドリックス(Greer Hendricks)とサラ・ペッカネン(Sarah Pekkanen)という2人の女性作家だ。
ヘンドリックスは長年サイモン&シュースターに務めていた編集者で、ペッカネンはこれまでに10作以上の女性小説(Chick lit)を出版しているベテラン作家だ。仕事を通じて知り合った2人は仲良くなり、一緒に本を書くことにしたという。読者の心を掴む作品を学んだ編集者と女性の心理を描くことに長けた作家の初めての共著は、このブログでご紹介したThe Woman in the Windowと並んで「2018年で最も注目のミステリ/スリラーのひとつ」と話題になっている。
ネタバレをしたら台無しの本なので多くは語らないが、読んでいるうちに自分の推測が間違っていたことがわかり、推測し直すことだけはお約束できる。でも、そこでわかったと思ってはならない。作者らは全体像を掴むだけの材料をなかなか提供してくれないから。慣れた読者なら後半に大まかな筋は読めてくるが、最後まで驚きのネタはいくつか残してある。
作者たちが謎をためこんでいるので最後まで読み続けるしかない。そこが、この心理スリラー(結婚や夫婦を取り扱っているので、ドメスティック・スリラーとも呼ばれる)の醍醐味である。「なぜ、こんな簡単なことをややこしくするのか?」と怒っている読者もいるようだが、Wife Between Usは、Gone Girlと同様に「読者を最後まで裏切る」ことを狙った心理スリラーなのだ。それを楽しめない読者は読むべきではない。
ひとつだけネタバレすると、Gone Girlよりは読後感がいいので、読後感にこだわる読者は安心して楽しんでいただきたい。
Pingback: 話題作だが、どこかで読んだ感じがつきまとう心理スリラー The Last Mrs. Parrish | 洋書ファンクラブ
感想をいろいろ書きたいのですが、ネタバレなしでは書けないので省略します(笑)。回想と現在がしょっちゅう交錯するので混乱したりもしましたが、伏線の張り方がうまく、謎めいたヒントを与えられて「この伏線はどこでどう回収されるのだろう?」と気になって読み進めて、その謎が解かれると「あぁ、そういうことだったのか!」と感心する・・・というのを複数回繰り返し、おもしろく読みました。嫌ミスだろうと思い込んでいたところ、ラストはほっとさせてくれたのも驚き(?)でした。