語り手は昏睡状態のヒロイン。真実と偽りで混沌とする2018年注目の心理スリラー Sometimes I like

著者:Alice Feeney
ハードカバー: 262ページ
出版社: Flatiron Books
ISBN-10: 1250144841
発売日: 2018/3/13
適正年齢:R(性暴力描写あり)
難易度:上級(最初のうち誰が誰なのか混乱する可能性あり)
ジャンル:心理スリラー/ミステリ
キーワード:昏睡、結婚、愛、友情、裏切り、殺人

この心理スリラーは、次のオープニングで始まる。

私の名前はアンバー・レイノルズ。私について次の3つのことを知っておいてほしい。
1. 私は昏睡状態だ。
2. 夫はもう私のことを愛していない。
3. 私はときどき嘘をつく。

My name is Amber Reynolds. There are three things you should know about me:
1. I’m in a coma.
2. My husband doesn’t love me anymore.
3. Sometimes I lie.

語り手のアンバーが意識を取り戻したとき、なぜ自分が病院で人工呼吸器に繋がれているのかまったく思い出せなかった。しかも、周囲の人々の声は聞こえるが、身体を動かすことはできない。

けれども、夫や妹の会話に耳をすませ過去を思い出していくうちに、昏睡状態になるまでの長年の出来事の積み重ねが明らかになっていく。

読者はアンバーが語る妹、両親、夫、元恋人、同僚、友人について最初に理解したこととは異なる矛盾に気づくようになる。そして、「私はときどき嘘をつく」という最初のアンバーの告白を思い出す。けれども、アンバーの語る矛盾はただのシンプルな「嘘」ではない。巧妙に仕掛けた目くらましのこともあれば、彼女が自分についたのではないかと思われる嘘もある。それらが混じっているから、読者にはなかなか真実が見えてこない。

2018年注目の作品として話題になっているSometimes I Lieは非常に巧妙に構成された心理スリラーであり、加害者と被害者、善人と悪人、真実と嘘のはっきりした境界線が見えない。おまけに、最後の最後まで「驚き」要素が用意されている。

一度読み始めたら、最後まで一気に読み終えたくなるページターナーだ。

だが、最後まで読んでも、疑問に対する答えがすべて与えられるわけではない。特に最後のサプライズエンディングにはネイティブスピーカーの読者ですらイミフだったようで、ネットには「あれはどういう意味なの?」という質問が飛び交っている。作者は「自分にはどういう意味かわかっている」と取材に答えていたようだが、それはあたりまえだろう。私はある推測をしているが、それが正しかったとしても良いエンディングだとは思えない。

読者がそれぞれ真実を推測する心理スリラーは面白いし、謎を残すエンディングもいいだろう。だが、読者の大半が混乱したまま終わるのは、必ずしもスリラーとして成功しているとは思わない。そこで、星5つから4つに減点した。

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