作者:Christine Mangan
ハードカバー: 320ページ
出版社: Little, Brown
ISBN-10: 1408709996
発売日: 2018/3/20
適正年齢:PG15
難易度:上級
ジャンル:心理スリラー/サスペンス
キーワード:冷戦時代、モロッコ、タンジェ、友情、愛情、執着心、ゴシックスリラー
第二次世界大戦終了後の冷戦下にあった1950年代のモロッコが舞台。
両親から遺産を受け継いだアリスは、結婚後に夫のジョンの強い希望でモロッコのタンジェ市に移り住んだ。けれども、広場恐怖症を持つようになったアリスはアパートから外に出られないようになっていた。両親の死後にショックで過去にシリアスな心理問題を抱えた経験があるアリスは、その後もずっと精神的に脆弱だった。ジョンはそれを見込んでアリスの金を使い込み、収入がある仕事もせずに自由気ままな暮らしをしていた。
モノトーンで孤独な生活をしていたアリスのもとに、何年も会っていない昔の友人ルーシーが現れた。
アリスとルーシーは、バーモント州にあるベニントン大学のルームメイトで、一時期誰よりも仲が良い親友だった。だが、ある事件の直後にルーシーは姿を消し、交流もまったく途絶えていた。近況も知らないはずなのに、なぜかモロッコに姿を現したルーシーにアリスは驚き、動揺する。
ジョンは妻の昔の友人が突然姿を現したことに苛立ち、図々しく居候しようとしているルーシーに敵意を示す。ルーシーのほうも、堂々と愛人を持ちながら妻の金を浪費するジョンからアリスを救うのは、アリスを本当に愛する自分だと自負している。
ルーシーのアリスに対する執着心はアリスを怒らせ、怯えさせる。ベニントンで起こった悲劇はルーシーの仕業だとアリスは直感していたが、彼女の財産の管理している後見人の叔母は、精神状態が不安定な姪が勝手に頭の中で作り上げたことだと信じていた。精神病院に入れられてしまうことを恐れるアリスは、夫にも叔母にも自分の恐れを打ち明けることができないでいた。
そして、夫のジョンが姿を消し、アリスが殺人犯として警察から疑いをかけられた……。
デビュー作でありながら発売前にジョージ・クルーニーの制作会社が映画権を買い、スカーレット・ヨハンソンが主役を演じることが噂されている注目の心理スリラーである。しかし、心理スリラーそのものとしては、2017年後半から2018年にかけて刊行された他の作品より出来が良いとはいいがたい。
読んでいる途中で連想するのがパトリシア・ハイスミスの『リプリー』(The Talented Mr. Reply,映画『太陽がいっぱい』の原作)だ。ディッキーがアリスで、トム・リプリーがルーシー。男女を変えれば、そっくりの設定だ。内容もよく似ていて、まるでファンフィクションを読んでいるような気分になってしまった。
「このまま予測どおりの展開になるのだろうか?」「いや、いくらなんでもそんなはずはない」と自問自答していたのだが、ほんとに予測どおりの後味が悪い終わり方だった。
小説の内容そのものよりも、そこに唖然としてしまった。
パトリシア・ハイスミスがリプリーを産み出した頃ならともかく、21世紀の現在にそのままのキャラを作るのは怠惰じゃないかと思う。
もうひとつ気に障ったのが、アリスとルーシー2人の視点で交互に進むという構成だ。2人の声(表現方法など)の変化が乏しく、異なる語り手を使う手法がうまくいっていない。この小説の場合には、ルーシーかアリスどちらか1人の視点であるべきだった。そのほうがサスペンス感が高まっただろう。
これらの理由で高い評価はできなかった。
だが、映画のほうは面白いものができる可能性がある。
冷戦時代にスパイが活躍していたというモロッコのタンジェはエキゾチックな雰囲気だし、プロットはいくらでも変えられる。
普通は「映画より原作が好き」というバイヤスを持つ活字中毒だが、この本に限っては映画のほうが面白くなりそうな気がしてならない。