滑稽で、切なくて、非合理的で…それでも愛は美しい。中年のゲイ作家のミッドライフ・クライシスを描く2018年ピューリッツァー賞受賞作 Less

作者:Andrew Sean Greer
ハードカバー: 272ページ (ソフトカバーも発売されたところ)
出版社: Lee Boudreaux Books
ISBN-10: 0316316121
発売日: 2017/7/18
適正年齢:R(性的なシーンあり)
難易度:上級(面白さがわかるにはボキャブラリーや読解力が必要だが、馴れた人にはとても読みやすい文芸小説)
ジャンル:文芸小説/ロマンス
キーワード:同性愛、ゲイ、恋、浮気、失恋、加齢、ミッドライフ・クライシス、作家
文芸賞:2018年ピューリッツァー賞

ゲイの作家アーサー・レス(Arthur Less)は、50歳という人生の大きな節目を目前にしてパニック状態になっている。

若き頃のデビュー作はそれなりに評価されたものの、それ以降の作品は鳴かず飛ばずで、長年の文芸エージェントから最新の自信作を却下された挙げ句にクライアントとして見捨てられてしまう。そのうえ、別れた年下のボーイフレンドが結婚するという。

元ボーイフレンドの結婚式に招待されたアーサーは、断る言い訳を作るために海外からの仕事の依頼をすべて引き受け、長い旅にでかけた。だが、二流作家のアーサーにやってくる仕事はどこかタガが外れている。

メキシコのイベント主催者は世界的に有名なある詩人を招待したかったのだが、詩人が登壇できないために、かつて彼の恋人だったアーサーが「天才詩人をよく知る人物」として代役に選ばれたのだ。そのパネルディスカッションで、アーサーは司会者から「自分が天才ではなく凡才だと自覚しながら書き続けるというのはどういう感じですか?」と歯に衣を着せない質問を受ける。

イタリアではある文芸賞の最終候補として招かれたが、その場に行ってから受賞者を決めるのが高校生だと知る。そして、自分の作品がイタリアで評価されているのは、原作者の自分ではなく翻訳者に才能があるのだと悟りを開く。

「ドイツ語が流暢」だと自負するアーサーはドイツで短期間の非常勤大学教授の役割を引き受けたのだが、行きずりの肉体関係を持った学生から「子どもみたいなドイツ語を話す」と笑われるまで、自分のドイツ語が「流暢」とは程遠いことを自覚していない。

エージェントから拒否された小説を書き直すために選んだインドの静養施設は1日中騒がしくて精神集中など不可能であり、暗示的な精神体験をした京都では400年の古い歴史を持つ扉に閉じ込められる。

アクシデントだらけの世界の旅の途中、アーサーは、天才詩人や年下の元恋人との過去を振り返り、愛について考える。そして、簡単に愛を捨てた自分の心の奥を直視するようになる。

アンドリュー・ショーン・グリーア(Andrew Sean Greer)の『Less』は、最近読んだ小説の中で最もユーモアがあり、笑える作品だった。しかも、笑いを狙った商業的小説を含めてだ。

その理由は、グリーアの人間観察と洞察力の深さ、巧みな表現力にある。たとえば、50歳の誕生日を目前に控えたアーサーが、わざわざドイツの出版社に電話して本の誤植を指摘する場面だが、少々外れたドイツ語で「僕が生まれたのは1965年であって、64年ではありません。50歳じゃなくて、49歳です」と主張する。他人にとってはどうでもいいようなことに時間と労力を費やすこの行動には、ただの見栄ではなく、年老いることで自分のアイデンティティを失う恐怖がにじみ出ている。このこだわりをアーサーがあまり自覚していないところに笑いがあるのだ。

著者のグリーアはアーサーより5歳年下なのだが、それ以外は非常によく似たプロフィールだ。アーサーの文芸エージェントは最新作を「中年の白人のゲイ作家の自己憐憫的な心境を綴った本など誰も興味を持たない」といった理由で却下するのだが、この作品を暗に自嘲していることがわかる。

その「中年の白人ゲイ作家」のアーサーは、見栄っ張りで、軽薄で、自己憐憫が強く、浮気性で、一見救いようがない。だが、彼に付き添って世界中を旅するうちに、読者はアーサーを愛さずにはいられなくなる。その偉業を成し遂げたグリーアは、ピューリッツァー賞を受賞するに値するすばらしい作家だと思った。

ところで、文中の登場人物が「賞を取ったら作家はおしまい」みたいなことをアーサーに言う場面があったが、ピューリッツァー賞を受賞したグリーアがそうならないことを祈っている。

1件のコメント

  1. 「中年の白人のゲイ作家の自己憐憫的な心境を綴った本」ですか(笑)。くすくす笑ったり、苦笑いしたりしながら読みました。異性だけれど同じ年頃(正確にはちょっと年上)の私としては「グダグダ言っていないで、前向きに生きようよ!」と叱り飛ばしたいところもあれば、「そうよね。後悔することがいろいろあるし、将来のことも心配になるよね」と同情するところもありました。ラストはハッピーエンド、と思っていいのでしょうか。

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