トランスジェンダーの女性の生きる苦しさを赤裸々に描く文芸小説 Little Fish

作者:Casey Plett
ペーパーバック: 295ページ
出版社: Arsenal Pulp Pr Ltd
ISBN-10: 1551527200
発売日: 2018/5/1
適正年齢:R(性的なシーン、ドラッグ、罵り言葉など)
難易度:上級〜超上級(ストリート英語に慣れていないと文脈における意味がわからない会話が多い)
ジャンル:文芸小説
テーマ/キーワード:トランスジェンダー(女性)、トランスセクシュアル、LGBTQ、自己肯定感、差別、暴力、自殺、自殺念慮、薬物依存、アルコール依存症、貧困

私には、トランスジェンダーの姪がいる。
小学生の頃に両親が離婚して以来、父親(私の夫の弟)にはほとんど会っていない。特にこの数年間は、父方の家族で姪に定期的に会っているのは私と夫、そして私たちの娘だけである。彼女が女性になったことを知っているのも、私たちだけだ。

姪の母(私の元義妹)は最初からよき理解者で、元夫の家族、特に祖母に知らせるべきだと思っている。だが、本人は拒絶されることを怖れて祖母に打ち明けられないようだ。この祖母(私の義母)が孫のことを語るときに、現在の女性名ではなく、昔の男性名で対応しなければならないのは嘘をついているようで私は嫌なのだが、「こればかりは、私たちが代わりに伝えることはできない」という点で、私と元義妹の意見は一致している。

「正直に打ち明けると、自分を根こそぎ否定される」というのは、多くのトランスジェンダーが抱く恐れだ。だが、トランスジェンダーの女性が接する恐れはそれだけではない。毎日のように、男性からの攻撃的なコメントや暴力にさらされているのだ。

でも、一般の人たちは、彼女らが日常的に接している恐怖や自己否定感を想像もしていない。

先日姪がソーシャルメディアで「今年読んだ本の中で最高」と絶賛していたLittle Fishという小説を読んだ。

作者のCasey Plett自身がトランスジェンダーであり、短編集のA Safe Girl to Loveは、LGBTQをテーマにした最も優れた作品に送られる「ラムダ賞」を受賞した。本書Little FishはPlettの小説デビュー作である。

主人公は、カナダのマニトバに住むトランスジェンダーの女性ウエンディだ。30歳になったウエンディは、周囲の世界に対して構えながら生きている。見知らぬ男からすれ違いざまに「おまえは男なのか、女なのか?」としつこく尋ねられたり、性的な暴力を受けることもある。男性と普通にデートをしたくても、騙されたと思った相手から暴力を受ける可能性がある。

そんな辛さを理解してくれるのは、自分と同じ立場にあるトランスジェンダーの女友達だけだ。彼女たちと一緒に酒を飲んだり、ふざけ合ったりしているときだけが、緊張を解ける時間なのだが、虚しさから逃れることはできない。

そんなとき、ウエンディは信心深いメノナイトだった祖父がトランスジェンダーだったかもしれないと知る。(メノナイトとは、現代文明とその恩恵を拒否し、昔ながらの生活方式を貫くキリスト教メノー派の信者のことだ。アーミッシュとの共通点も多いが、17世紀に決裂している)。

ウエンディは、今は亡き祖父の真実について興味を懐き、それを知る老婦人とコンタクトを取る……。

姪が絶賛していたし、(あまり多くはない)読者の評価も高かったが、正直に言うと、小説としての完成度は低い。トランスジェンダーの女性が日常的に受ける差別や暴力の恐ろしさ、それによる絶望感はひしひしと伝わってくるし、それを伝えているだけでも重要な小説だと思う。だが、酔って、絶望して、暴力を受け、罵り言葉を叫び、破壊的な行動を取り、そしてまた酔いつぶれ、破壊的なセックスを受け入れることの繰り返しが多すぎる。

ウエンディと女友達の苦痛は伝わってくるが、最後まで読んでも、それ以上に発展していかない。それがこの小説の本質なのかもしれないし、その苦痛を知る読者が星5つ評価を与えているのかもしれない。だが、それを超えて、一般読者に届く声に欠けている。欠けていても、文芸小説として完成度が高ければ良いのだが、そこも足りない。

なぜ「足りない」と感じるのか?
それは、ウエンディと女友達の自己破壊的な行動の下にある深い部分を見せてくれそうで、見せてくれないからだ。きっと、そこに何かがある筈だ。理解したい。そう思うのに、深く掘り下げてくれない。そのために、「わかる人にしかわからない」という小説になっている。

この本があまり売れていない理由はそこにあるのかもしれない。

愛したかった小説なので、愛せないのが残念だった。

ただ、重要な本だと思うので、読める人は読んでみてほしい。
簡単に目を通しただけだが、短編集のA Safe Girl to Loveにも似たようなシーンやメッセージ性はあるので、そちらのほうがいいかもしれない。

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