美貌ではなく知恵で生き延びる地味なヒロインらが非力なヒーローたちを救う、東欧民話と歴史が融和したファンタジー Spinning Silver

作者:Naomi Novik
ハードカバー: 480ページ
出版社: Del Rey
ISBN-10: 0399180982
発売日: 2018/7/10
適正年齢:PG12(夫婦間の性的行為についての会話はあるが、実際の性的描写はゼロ)
難易度:上級レベル(ネイティブの普通レベル)
ジャンル:ファンタジー/YAファンタジー
テーマ/キーワード:東欧、リトアニア、スラブ系民話、ルンペルシュティルツキン、金貸し、貧困、悪魔、取引、ユダヤ人迫害、戦い

東欧(リトアニアあたり)の村に住むユダヤ人一家の父親は金貸し業をしているが、家族は貧困に陥っている。結婚したときに母親が大金を持参したのだが、父親がすぐに「困っている」村人に貸してしまい、心優しすぎてそれを回収できずにいるのだ。貸した相手は、その金で贅沢をしているくせに、ユダヤ人で、しかも「金貸し」である一家を軽蔑し、じゃけんに扱う。ひとり娘のMiryem(ミリエム)はその非条理に憤り、自分で貸した金の回収を始めた。断固として言い訳を許さないミリエムに、人々は少しずつ借金を返し始めた。

だが、それでも「返す金なんかない」と追い払おうとする農夫に対し、ミリエムは借金の支払いとしてその家の長女Wanda(ワンダ)に家の手伝いに来させるように交渉する。

借りた金で酒を飲み、子供に食事を与えるどころか、殴りつけるだけの父親を恐れ、その生活に絶望していたワンダは、優しい両親がいて、食事も与えてくれるミリエムの家にずっと通いたいために借金をすぐには返却したくないと願った。貸した金の金利や残高の計算をするミリエムを見て、それが魔法だと思ったワンダは自分も学ぼうと思う。

ミリエムの両親は、ワンダだけでなく、飢えているワンダの兄や弟にも手伝いを頼んで食事を与えるようになる。そして、ミリエムは金の回収だけでなく、祖父母が住む街で仕入れた服を売るようになる。飢えていた2つの家族の生活が安定しようとしていたとき、伝説の妖精Staryk(スターイク)がじわじわと村に近づいていた。そしてある日、スターイクの王が家の前に銀貨の入った袋を置き去る。ミリエムに銀貨を金貨に変えるよう命じるものだった。父親がミリエムに対して使った「お前は触ったものを金に変える」という冗談を耳にしたスターイクが真に受けたらしい。

村人の間では、スターイクの侵略や報復の恐ろしさはよく知られている。
絶望的に思えたが、ミリエムは知恵と商才を発揮して銀貨を金貨に変えることに成功する。

しかし、スターイクはそれでもミリエムを開放せず、さらに多くの銀貨を金貨に変えるように求める。そこで、ミリエムのほうも、恐ろしいスターイクの王に負けずに条件を交渉した。けれども、ミリエムの成功がかえって災いし、スターイクの世界に連れ去られてしまう。

スターイクの銀で作られた指輪や首飾りを買ったのは、ミリエムの祖父母と同じ街に住む公爵だった。あまり器量が良くない娘のIrina(イリーナ)を君主に印象づけるためだったが、それが見事に成功してイリーナはハンサムな君主と結婚することになった。けれどもイリーナは君主が魔物に取り憑かれていることを知っている。結婚が死刑宣告に近いとわかっているイリーナは、自分の命を守るために知恵を絞る……。

ふつう、少女が憧れるおとぎ話は、主人公が美しいお姫様で、王子さまが苦境から救ってくれるものだ。

けれども、NovikのSpinning Silverはまったくタイプが異なるおとぎ話だ。

ここに出てくる男性たちは、スターイクの王にしても、ツァーリにしても、美しくて地位も権力も持っているが、いざとなるとプライドばかりが優先して非力である。ワンダの父親は子供たちを奴隷扱いして暴力を振るうし、イリーナの父は自分の権力拡大のために娘を利用することしか考えない。ミリエムの父は善人だが、家族の飢えより金を貸した相手の気持ちを気にする腰抜けだ。

これらの男たちの指図におとなしく従っていたら、ヒロインたちは飢えか暴力の犠牲になって死ぬしかない。だから、彼女たちは、最初から男たちには期待していない。典型的なYAファンタジーのヒロインのように「美貌のヒーロー」に一目惚れして葛藤することもない。むしろ、「死んでくれたらいいのに」程度に嫌っている。

だが、男たちが窮地に陥ったとき、美貌も権力もないこれらのヒロインは彼らを救うことを選ぶ。しかも、スーパーパワーではなく、わずかばかりの魔術と知恵を駆使して。

そんなSpinning Silverのヒロインたちを好きにならずにはいられない。

ことに、ミリエムがいい。非条理な世界や腰抜けな人々に対して怒りを募らせながらも、他人を傷つけようとはせず、言い訳もせず、自分で解決策を見出そうとする。そして、冷たいふりをしていながら、行動はけっこう親切だ。

YAファンタジーでは、もっとこういうヒロインに活躍してもらいたい。

Spinning Silverは、前作のUprootedのように東欧の民話をベースにしている。spinning silverというタイトルと主軸になっているミリエムのストーリーは、グリム童話の「ルンペルシュティルツキン」からインスピレーションを得ていることがわかる。ほかにも、異世界での「本当の名前」が持つ重要な意味など、民話やファンタジーが好きな人が楽しめる詳細がたくさんある。

何よりも、凍えそうに寒い冬の世界に連れて行ってくれるNovikの物語の紡ぎ方が心地良かった。今年読んだファンタジーの中で最も好きな作品だ。

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