ぎょっとするタイトルとは裏腹に、ユーモア、家族ドラマ、ミステリ、社会文化の問題がぎっしり詰まった読み応えある小説 Erotic Stories for Punjabi Widows

作者:Balli Kaur Jaswal
ペーパーバック: 400ページ
出版社: HarperCollins Publishers
ISBN-10: 0062645110
発売日: 2017/9/7
適正年齢:R
難易度:上級
ジャンル:文芸小説(大衆小説)
テーマ/キーワード:ロンドン、インド移民、パンジャブ人、移民コミュニティ、移民2世、伝統的慣習、男女の役割、ミステリ、家族ドラマ、ロマンス
 

Erotic Stories for Punjabi Widows(パンジャブ未亡人たちのためのエロチックな短編集)は、タイトルだけ見ると、数年前に全世界で大ヒットしたFifty Shades Of Greyのようなエロチック小説を連想する。というか、それより外で堂々と読むのをためらうようなタイトルだ。

だが、ぎょっとするタイトルとは裏腹に、笑ったり、社会問題について考えさせられたり、慣習で虐げられている女性に同情したり、悲劇に切なくなったりする小説なのだ。そして、誤解されそうなタイトルにもかかわらず、ふだん文芸小説を読んでいるタイプの女性の間に口コミで広まっている。先日もある読書家の女性から「あれ読んだ?」と尋ねられたくらいだ。

この小説は、インド北西部のパンジャブ地方からロンドンに移住したシク教徒のコミュニティが舞台になっている。

パンジャブ2世のニッキ(Nikki)は、生まれ育ったコミュニティの伝統的な風習を嫌って遠ざかり、若いイギリス人女性として自立を誇っている。だが、父が亡くなり、弁護士になるためのロースクールを中退してから経済的に苦しい状態になっている。そこで、これまで避けてきたパンジャブ人のコミュニティセンターで「文芸創作教室」を教える仕事を引き受けた。

大学での文芸創作クラスのように互いの書いた英語の短編小説を批評しあう「文芸創作教室」を想像していたニッキだが、クラスに登録したのはシク教徒の未亡人ばかりだった。しかも英語がまったくできない者もいる。彼女たちは、「短編小説の創作」ではなく「英文学の基礎」を学ぶ教室だと勘違いしていたのだ。そのうち、ひょんなことから、未亡人たちはエロチックな本を見つけ出し、それをシェアするようになる。ニッキは、男中心の伝統的な社会で押さえつけられてきた上品で無口な未亡人たちそれぞれにユニークな過去と考え方があることを知り、それらの物語を記録しようと考える。

だが、口コミでさらに多くの未亡人たちが集まり、外部のものがそれに気づくようになった。超保守的なシク教男性が集まり、女性の道徳的行動規範を強いる秘密集団(brotherhood)がそのひとつだった。ニッキが軽い気持ちでスタートした文芸創作教室が、保守的な男性たちの暴力のターゲットになり、過去の悲劇の真相を引き出すことになる。

この小説を多くの読者に広めた貢献者のひとりは、女優のリース・ウィザースプーンだ。ウィザースプーンは、「Hello Sunshine」というこれもまた彼女自身が創始したメディア会社との提携で、ネットでのブッククラブ(Book Club、読書会)を始め、毎月1冊推薦している。Erotic Stories for Punjabi Widowsは、このブッククラブの推薦書だったのだ。

場所と宗教は異なるが、先日ご紹介したA Place For Usとも共通するテーマがある。
A Place For Usは時間や場所、視点があちこちに飛ぶので読みにくいが、本書は筋書きが理解しやすく、最初の数章さえ通り過ぎれば、その後の展開はスピーディーだ。

タイトルに怯えず、ぜひ試してみてほしい。

3 thoughts on “ぎょっとするタイトルとは裏腹に、ユーモア、家族ドラマ、ミステリ、社会文化の問題がぎっしり詰まった読み応えある小説 Erotic Stories for Punjabi Widows

  1. 渡辺さんの書評を読んで、すぐ「この本、読みたい!」と思ったのに、実際に読むまでに2年も経ってしまいました(笑)。コミカルさと深刻さのバランスが上手くとれている作品だと思います。イギリスのシク教徒の文化や生活についていろいろ知ることができたのもよかったです。

    「映画化するとよさそうだなぁ」と思ったら、やっぱり映画化の予定もあるようですね。イギリス映画にはコメディータッチで社会問題について考えさせるすばらしい映画がいろいろあるので、上映されたら観てみたいです。

  2. 渡辺さんの書評を読んで、「この本、読みたい!」と思っていたのに、実際に読むのが2年後になってしまいました。コミカルさと深刻さのバランスが取れていて、読みやすかったです。イギリスのシク教徒コミュニティーの生活や慣習、社会問題についていろいろ知ることができたのも良かったです。映画にしてもおもしろそうだと思ったら、やはりイギリスで映画化の話があるようですね。

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