ソーシャルメディア時代に爆発的に売れている詩集への愛と非難 Milk and Honey

作者:Rupi Kaur
ペーパーバック: 208ページ
出版社: Andrews McMeel Publishing
ISBN-10: 144947425X
発売日: 2015/10/6
適正年齢:PG15+
難易度:初級+〜中級
ジャンル:詩集
テーマ/キーワード:the hurting, the loving, the breaking, the healing、愛、失恋、傷つき、癒やし、現代フェミニズム

読むべきか、読まざるべきか、レビューを書くべきか、書かざるべきか……。
そう悩み続ける本というのがときおりあるのだが、全世界で爆発的に売れている詩集『Milk and Honey』もそのひとつだった。

発売から3年たったいま、ようやく無視できずに私なりの感想を書くことにした。
というのも、この本は、昨年末までに全世界で300万部ほど売れ、今年になってからも、ずっとベストセラーリストにとどまっているからだ。

ふつう、詩集はあまり売れない。それなのに、なぜこの詩集はこれだけ売れるのだろうか?

「読みやすい」し、「理解しやすい」というのは、無視できない部分だ。
作者のKaurは、出版当時にまだ24歳で、その若さゆえの、無垢でストレートな感覚で、親や社会からの抑圧や愛、道具として扱われる女性の切なさ、愛を失う心の痛み、癒やしなどを語っている。

下記のような、ショックバリューがあるイラスト入りのフェミニズム的な詩も人気の秘密だろう。

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Milk and Honeyから抜粋

だが、Kaurを熱心に愛する読者がいるのと同時に、強烈に嫌ったり、批判する者も少なくない。私が最初のうちこの本を手に取らなかったのは、以前から詩を愛し、詩を書いてきた多くの人たちから「まったくひどい本だ」と聞かされてきたからだ。

読んだ後で私が同感するのは後者のほうだ。

Kaurの書いているものは、平易な文章をランダムにぶつ切りにしたものであり、「詩」ではない。

ふだんから詩を書いたり、読んだりしている者は、ひとつひとつの表現や行替えに重要な意味があることを知っている。それをすっかり無視してぶつ切りにした作品を「詩」として出版した作者や出版社だけでなく、崇めたてまつっている人たちにも唖然としている。そして、かなりの数は憤っている。

彼らの批判は、「これは、Tumblr(タンブラー)やPinterest(ピンタレスト)に載っている聞こえが良い文章と同じ」、「平易な文章を書いて、それをランダムに切れば、自動的に詩になるってわけ?」というものだ。

Kaurと同年代のミレニアル世代は、手紙や電話ではなく、スマートフォンでテキストメッセージを取り交わす。ふだん、長い文章を読んでその行間にある意味を理解する作業をしていないので、すんなり理解できるもののほうを好む傾向もあるのだろう。

若い頃から詩が好きだった私は、この本を「詩集」と呼ぶことに抵抗があるのだが、読者の心理的な敷居を低くして、若者に「詩を読もう」、「詩を書こう」と思わせたところには意義があると思う。

個人的には、『Milk and Honey』は、詩のジャンルにおける『Twilight』や『Fifty Shades of Grey』だと思っている。芸術作品でないことは確かだが、それを好きな人がいれば、ちゃんと存在する価値はある。

1件のコメント

  1. いつも本選びの参考にさせていただいています。
    話題のこの本を手に取ってから「いったいこれがポエムなのか?」と呆れつつページをめくりがっかりとした読後感。そして的確に文章にまとめられたこの記事を読み、これこそ自分の言いたかったこと、と納得しました。ありがとうございます!

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