文化の違いによる誤解や摩擦、国を超えた人の繋がりを笑わせながらそっと教えてくれる児童書 The Assassination of Brangwain Spurge

作家:M.T. Anderson (文章), Eugene Yelchin (イラスト)
ハードカバー: 544ページ
出版社: Candlewick; Illustrated版
言語: 英語
ISBN-13: 978-0763698225
発売日: 2018/9/25
適正年齢:小学校高学年から中学生
難易度:中級レベル
ジャンル:児童書(mid-grade,小学校高学年から中学生)
テーマ/キーワード:elfin, goblin, diplomacy, spy
賞:National Book Awards最終候補(まだ結果は出ていない)

先日ある記事で「絵本や児童書の表紙の絵が議論されるのは、それだけ日本人が表紙を重要視しているから。欧米の本って、表紙に凝ってないでしょう? 彼らにとって本は“道具”であり、表紙はカバーなので、“本を保護する紙”でしかないんですよ」という日本の「児童文学評論家」の方の意見を読んで唖然とした。

好みの絵とかデザインには国民性がある。それが児童書のイラストや表紙にも反映している。だが、日本人と好みが違うからといって欧米人が表紙を重要視していないわけではない。「欧米の本は表紙に凝ってない」というのは乱暴すぎる意見だ。あまりにも乱暴な意見なので、ちゃんと「表紙を凝っている」児童書の一例をご紹介しておこうと思う。

まずは、このハードカバーをご覧いただきたい。重厚な表紙にゴールドのエンボス加工が素敵で「本を保護する紙でしかない」なんて口が裂けても言えないだろう。

 

表紙を開くと、右下には持ち主の名前を書き込むところもある。

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このThe Assassination of Brangwain Spurgeは、ベテラン児童書作家のM.T. Andersonと、ベテランイラストレーターのEugene Yelchinの共著だ。Andersonが書いた文章にYelchinがイラストを描いたのではない。本当に共著なのだ。ある章は文章だけで、別の章はイラストだけで展開していく。

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イラストだけでストーリーを伝える章

隣接するElfinの国とGoblinの国は過去に戦争を繰り返し、国交が途切れている。
Elfinの国で太古のGoblinの美術品が発掘され、国交を回復するきっかけとしてGoblin国を司るDark lordへの贈り物にすることが決まる。

Elfinにとって危険なGoblin国への外交官として、生真面目な歴史家で古文書保管人Brangwain Spurgeが選ばれた。Goblinの国でのSpurgeの世話人は、同じく古文書保管人のWerfelだ。Werfelは国の名誉をかけてSpurgeを歓待する努力を尽くすが、気難しいSpurgeは何ひとつ気に入らない。それだけでなく、Werfelにとって大切な人間関係やコネクションを傷つける。

Spurgeはスパイの役割も命じられてきたのだが、彼が知らなかったのは、Elfinの国王と彼を選んだ元同級生がDark lordの暗殺を企んでおり、Spurgeをその犠牲にしようとしていたことだった。SpurgeとWerfelは、互いの祖国から裏切り者として追われるようになる。

elfinとgoblinの間の文化の差が誤解につながるところは、文化が異なる国で暮らしたことがある人ならすぐにピンとくる。そしてつい吹き出してしまう。首が飛んだりする残酷シーンもあるが、それを含めて小学校高学年から中学生にウケそうなダークユーモアたっぷりだ。

これが児童書であり、しかも全米図書賞の最終候補になるというのは、アメリカらしさだと言えるだろう。

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