作者:Karen Thompson Walker
ハードカバー: 320ページ
出版社: Random House
ISBN-10: 0812994167
ISBN-13: 978-0812994162
発売日: 2019/1/15
適正年齢:PG15
難易度:上級(ネイティブの普通レベル)
ジャンル:文芸小説/スペキュラティブ・フィクション
キーワード:ディストピア、伝染性疾患、パンデミック、眠り、ヒューマニズム
カリフォルニア州南部の小さな大学町で、眠りについた学生がそのまま目覚めないという事件が起こった。新型ウィルスにによる伝染性疾患が疑われたときには、すでに多くの学生がこの眠り病に罹患し、大学で働く用務員や教授、近所の人たちに広まっていった。
眠りについた者は、そのまま亡くなる者もいたが目覚める者もいた。目覚めても人格が変わっていたり、夢をひきずったまま自殺したりする。感染力が強い疫病が全米に広まらないように政府は軍隊を送り込んで町そのものを閉鎖する。
食料品や物質が減り、医療従事者も病に倒れて人手不足になるなかで、眠り病にかかった者たちは夢を見続ける。そして、まだ罹患していない者は、それぞれのやり方で異常事態に対応していく。
この小説には主人公はない。病の最初の犠牲者の同室者でシャイな女子大生メイ、硬直的な正義感を持つ同級生のマシュー、「世界の終わり」の準備をしているサバイバリストの父、その娘で12歳のサラと妹のリビー、幼い娘が生まれたばかりの大学教員夫婦ベンとアニー、認知症のパートナーを持つ生物学教授のナサニエル、この疾患の原因究明のためにロサンゼルスから来た精神神経学者のキャサリン、といった多くの人々の視点で多角的にこの状況を描いていく。
だが、これは「人々が病と戦うストーリー」でもなければ、「世界の終わりを描くディストピア小説」でもない。シチュエーションではSFということになると思うが、そのカテゴリに入れると読者が迷うだろう。あえて言えば、Station Elevenに似た感じのスペキュラティブ・フィクションである。
三人称での語りには距離感があり、まるで小説の中で眠り病にかかった者たちがみる夢のような感覚を抱かずにはいられない。
病を引き起こすウィルスは同じかもしれないが、病がもたらした夢は患者によって異なる。単なる悪夢を見る者もいれば、未来を見たと信じる者もいる。そして、夢のほうが現実だと思い、そこに戻ろうとする者も。初期に罹患し、約1年後に目覚めた女子大生は、夢で過ごした40年もの人生が実際に起こったことだと感じてならない。そして、目覚めた現実には存在しない「過去」とその過去に愛した家族を恋しく思う。
私はときどきディストピア的な夢を見るのだが、目覚めたときに彼らのような感覚を持つことがある。痛みやショックが残っていることもある。そして、夢と現実のどちらが本物なのかと迷うことも。
この小説を読んだ後も、眠り病から回復した患者のような余韻が残る。小説としては完璧とは言えないが、この余韻を与えてくれるだけで傑作だと私は思う。